訳アリなの、ごめんなさい
「ブラッドが随分過保護にしてるって聞いたわ?」

「そんな話、どちらから?」


「侍女達よ!彼今日から任務復帰なんでしょう?離れるの大変だったのではない?」


妃殿下の言葉に、朝の出来事を思い出して、ため息を吐いた。

「あれをするな、これをするな、体は冷やすな、定期的に横になれ、あとなんか他にも言ってたわね?」


お茶を入れているリラに話を向ければ、彼女もうんざりと言う顔で首を振った。


「いちいち覚えられません」


あなたもご苦労様ねと妃殿下はリラに向かってクスクスと笑った。


「事件のことは、何か進んでいるのでしょうか?ブラッドってば、あまり教えてくれないんです」

おまけに侍女達にも口止めしているんですから!妃殿下は何か知りませんか?と聞くと、妃殿下は口元に指を立ててうーんと考えこむ


「私には殿下が胎教に悪いからってあまり教えてくださらないのよね。ただ司法局の判断が今日下りるから、そのあと貴族院で承認されるっていうのは聞いたわ」

「そうですか」

司法局の判断が降りるという事は、すべての調べが終わったという事で、これ以上あの日のことを思い出さないで済む事に安堵した。

目が覚めた翌日、私のもとには司法局が派遣した女性事務官がやってきて聴取を行なっていった。極めて事務的な聴取だったけれど、思い出すだけでも随分と疲弊して、終わった途端少しパニック発作を起こして、リビングに控えていたブラッドに泣きついて、その日は半日こんこんと眠った。

もう二度とあんな思いはしたくないと思ったけど、その必要がなさそうで安心した。



窓の外を見れば、数日前に降った雪が溶けて木々をキラキラと輝かせている。

この雪がすべて溶ける頃には、きっと故郷から自分の家の名前が消える事になる。

父が守ろうとした男系の血筋は絶えて、そして長い歴史を持つ一つの伯爵家がその歴史を閉じる。

せめて父と母と兄の墓だけは手入れをしてもらうように手配をブラッドに頼もう。

もうきっと、わたしはあの地に足を踏み入れる事はない。


そっと妃殿下がわたしの手を握った。

青い瞳が、励ますように力強い色に輝いている。


そうか、此の方だって故国に戻る事は二度とないのだ。彼女は、身一つでこの国にやってきて、そして今出産という大きな転機を迎えようとしているのだ。

「甘えてばかりいたらいけませんね?」

彼女の顔を見て呟くと

「あら、アーシャはもっと甘えるべきよ!ブラッドだけでなく私たちにもね!」

と叱られてしまった。
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