訳アリなの、ごめんなさい
翌日も妃殿下は大忙しで、婚姻の儀に関する施設の下見や、王族妃嬪への、挨拶回り。

これは私も辛かった。

適齢期なのに、結婚もせず、王太子妃の世話役になった令嬢など、物珍しいに決まっている。

行く先々で、好奇の目で見られて辟易した。



「貴方もお疲れ様ね」

帰宅中の馬車の中で、それに気づいていたらしい、セルーナ妃に気遣わしげに言われて、苦笑して肩を竦める。

「仕方ありませんわ」

これからも、こうした視線と付き合って行かねばならないのだ。

考えただけで憂鬱だ。

「でもどうして貴方はこの仕事をしようと思ったの?貴方ほどの知性や立ち回りのできる人、欲しい殿方はいっぱいいるのでなくて?」


ずっと不思議に思っていたのよと、妃殿下はその美しいブルーの瞳を楽しげに輝かせている。

どうやら彼女は、私のそうした話を聞きたくて仕方がないらしい。


「残念ながら姫様、そうした殿方がおりませんでしたので今ここに」

自虐的に笑って、首を振ると、妃殿下はむぅっと頬を膨らませる。

「解せないわぁ!私が男なら放って置かないのに!何か訳があるの?」

そう聞かれて、私はうーんと考え込む仕草をする?

「ない、わけではありませんが、妃殿下の御耳を汚すような下賤な話ですので」

「複雑なのね?」

「まぁそんなところです」

私が頷くと、彼女はふふふと笑う。

「古来から王族というものは下賤で口にも出せぬ事が陰ながら繰り返されてきたものです。
私だって随分と免疫あるのよ?」

可愛らしく悪戯気に笑うので、私もついくすりと笑みを漏らす。

「それは意外ですね」

「もし、いつか貴方が気が向いたら話してくれる?」

可愛らしく首を傾げられて、私はうーんとまた考えるそぶりをする。

きっとこの事は、生涯誰にも話せない。
しかし、折角信頼を寄せてくれている彼女を無碍に突き放す事はしたくなかった。

だから心の中で「ごめんなさい」と謝罪しながら私はにこりと微笑む。

「はい、いつか。私の気持ちの整理がついた際には」








妃殿下を部屋に送り届け、自身も部屋に戻る。

明るい日差しが照りつけて、窓辺はポカポカと暖かかった。


ソファに腰掛けて、ぼんやりと考える。

「結婚、かぁ」


昔は夢見ていた。
純白のドレスを着て、白い百合のブーケを手に持つ。隣に立つのは、まだ少年の姿のブラッドがいた。


幼い頃は、彼とずっと一緒にいると疑いもしなかった。


婚約破棄を言い渡されるあの時までは。

父の死の直後だった。

そこから思えば結婚なんて、考えることもなかった。


考えても無駄だったから。

あの人たちが、私の幸せになることを許すはずがないのだ。


彼等から、解放されただけでも上出来なのだ。


多くは望まない



嘲笑が漏れる。

「私も、随分と疲れているわね」

息を吐くと、ゆっくり瞳を閉じる。
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