燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~
何でそんなことを急に思ったんだろう。
でも、胸が、やけにドキドキと音を立ててあたしに言うんだ。
『このままではいられないかもしれないよ』ってことを……。
あたしはその日、病院で工藤先生と約束していた。
工藤先生が病院の自分のいる心療内科で、一緒にお話ししようって。
あたしは工藤先生と話すのが好きだったし、週に一度はそこにいって、
週に一度は工藤先生がうちに来てくれていた。
工藤先生はあまり先生らしくない。病院でも白衣を着てることは少ないし、話し方も友だちみたい。それもあってか、あたしは工藤先生になんでも話すことが多かった。
「どうしたの? 今日は元気ないね?」
「ねぇ、工藤先生。あたしの記憶ってまた、『つばめちゃん』だった時みたいに、なくなっちゃうことってあるのかなぁ」
「え?」
工藤先生が驚いた顔をしてあたしを見る。
「急に思ったの。あたしがこれまでの記憶がまったくないみたいに、つばめちゃんはあたしが持ってる記憶がない。また逆転することもあるんじゃないかって……。そしたらあたしの記憶はどこに行くの?」
あたしが工藤先生を見つめると、工藤先生は優しい目をして、
「……不安なんだね。どうして? 嫌なことでもあった?」
と聞いてくる。
「ううん。全然違うの。拓海といて幸せな時に、ふいに不安になったの。そしたら胸がドキドキして止まらなくなって……あたしはあたしのままでいられない気がしたの。拓海のことが大好きな『あたし』は、いなくなる気がしたの」