燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~

 夜、目を開けると目の前に拓海がいた。
 あたしはほっと胸をなでおろす。

「よかった……気が付いて……」

 拓海はそっとあたしの髪をなでる。
 あたしはその手の温度に小さく安心した息を漏らす。

 もう大丈夫だ。震えてない。
 いつも通り、拓海に触られて嬉しい。


「ごめん、心配させた?」
「こっちこそ……ごめん」
「なんで謝るの?」
「つばめ泣いてたし。ひどくしたよね……」


「最初だけだったじゃない。結局さ、拓海は最後優しいし」


 あたしが言うと、拓海は苦笑した。あたしが怖かったのは最初だけで、途中から目の前の男の人が拓海だってわかったら怖くなくなった。
 あたしは拓海の胸に顔をうずめる。

 拓海の速い心臓の音が心地いい。

 もう普通に拓海に触れられている自分は、やっぱり拓海のしたことならなんだって許せるんだよなぁ、と考える。


「よかった。また、拓海にこうやって触れられる」


 そしてもう一つ。
 今、拓海の胸の中にいるのが、『あたし』で良かった。


 拓海と抱き合ってる最中ずっと考えてた。

 もし『あたし』が『あたし』でいるのに期限があるなら、
 一日でも長く、拓海のそばにいたい。

 そんなことを強く願っていた。


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