燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~


 手がやけに震える。そのあたしの手を、拓海はそっと握って、帯を少し乱暴に引き抜く。
 やめて、と声が出かけて、焦って口を紡ぐと、拓海の唇があたしの唇に触れた。強く、長いキスに翻弄されていると、拓海はそのままあたしを抱き上げて、用意されていた布団の上に横たえた。

 その後また、長いキスをして、急に舌が口内に入り込んでくる。久しぶりのキスは嬉しくて仕方ないはずなのに、震える体と、勝手に流れる涙とがあたしの頭を混乱させた。怖い、でも、あたしは拓海のことが好き。

 細い糸に縋りつくように、あたしは何度も何度も、拓海の名を呼んだ。


怖い。
逃げたい。
いやだ。
助けてほしい。


 いま。全部全部、拓海があたしに与えて。
 あたしは拓海が与えてくれた感情だけをちゃんと覚えておくから。


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