燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~


 それからつばめちゃんの様子を見て、婦人科に同行して、つばめちゃんを天馬に託して、もう一度警察署に戻ってから手続きをして……

 気付いたら真っ暗になっていて、私は警察署の廊下の椅子に腰を下ろした。


「あなた確か、天馬の……」
 その声に顔を上げると、大熊さんがそこにいた。


「東雲総合病院の一条と言います。つばめちゃんがお世話になりました」
 そのまま、私が頭を下げると、

「彼女は……ちゃんといい人たちに囲まれてるんだな。よかった」
と大熊さんは安心したように言う。


「……えぇ」

 すると、前から、すっと手を差し出される。

「大丈夫? 立てる?」

 そう言われて、立とうとすると、足に力が入らないことに気づく。
 それに大熊さんも気づいたのか、無理に立たせようとせずに、自分も私の隣に腰かけた。



「す、すみません。今になって、ちょっと……。なんだか、すごく驚いて……。あんな天馬、はじめてだったし。私のことすら、認識してなかったかも……。だから、ありがとうございます」


 あんなの初めてだった。あんな天馬を見たのは……。
 幼馴染の前で、自分がとことん役にたたないことを思い知った。

 これまでは天才と呼ばれる幼馴染と並んで、同じように仕事ができているという自負もあった。
 天馬は自分を医師として対等に扱ってくれたし、大切な相棒だった。

 でも、結局、この一番大事な場面で、私は大切な相棒に何もしてあげることはできなかった。

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