燕雀安んぞ天馬の志を知らんや。~天才外科医の純愛~


 自分が彼女を傷つけるなんて。
 まして、事件を思い出すきっかけになるなんてあってはならない。

 そしてそれだけでなく、
 『やらなければならないこと』もある。


 僕は、それからも毎日、彼女の知り合いの消息をたどった。



 もし、犯人が見つかったらどうするのか。
 自分でも分からなかった。

 あのとき、警察署で会った犯人かもしれない男。
 あの時、自分は衝動的に動いた。

 地位も、立場も、医者としての責任も、何もかも失くしてもいいと思った。
 それを止めたのは大熊さんだった。

 あのときは、あれで冷静になったけど、
 それは彼が犯人ではなかったからであって……。


 もし本当の犯人を見つけたら、二度と彼女の目に入らないように殺してしまうかもしれない。いや、きっとそうしてしまうだろうと、そんな予感だけが鎮座していた。


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