生贄になる予定が魔界の王子に頭突きを食らわせてしまいました
「なぁに?」

 肩に乗せられた彼の頭がこつんとアリシアの頬に当たる。

「実は僕は7人兄弟なんですが……」

「お、多いのね?!」

「ええ。兄が二人と姉が一人、弟二人に妹が一人います」

 お母さん頑張ったね?!

「なので昔から自分の子供もたくさん欲しくて」

「ヴェルの子供なら男の子でも女の子でも可愛いでしょうね」

「貴女の子供もきっと可愛いですよ? だから……」

 背後から回された白い手が愛おしげにアリシアの腹を撫でる。

「出来てると良いですね。僕たちの赤ちゃん」


 …………。
 ………………。
 ………………………はい?


 デキテルト イイデスネ ボクタチノ アカチャン?


「……え?」

「結果がわかるのはひと月後くらいでしょうか」

 腹を撫でる手は止まらない。

「ま、魔族と人間の間に子供って生まれるのっ、と言うか、ヴェル!! あなた、もしかして避妊しなかったの?!」

 アリシア腐っても巫女。恋愛経験は皆無でも医学の知識は多少ある。

「ええ。この世界には人間と魔族の混血の者も大勢いますよ」

 くるり。とクライヴェルと向かい合う形に反転させられる。

「だって言ったでしょうアリシア? 僕は、この初恋を、逃がす気はない。と」

 そうアリシアの瞳を覗き込みながら、魔界の王子は艶然と笑った。

 ぱくぱくとぱくぱくと、陸に揚げられた魚のように口を開けることしかできない。

「顔が真っ赤ですよ?」

「な」

「な?」

「な、ななななななっなんてことを?!!」

 思わずクライヴェルの胸元を掴んだ。

 そんなアリシアの姿を見てクライヴェルは不安げな表情になる。

「怒り、ました……?」

 怒るとか怒らないで済む問題じゃないだろう。
 新たな命が宿り誕生するということはそんな簡単なことではないはずだ。
 どうしてそんな重要なことを相手に相談もなしにするのか。

 でも何故だろう。
 目の前の捨てられた子犬のような魔族を、放って置けないと思う。

「責任、ちゃんと取ってよね」

 額と額を合わせ上目づかいで青い瞳を見つめる。
 瞬間、月が喜びに蕩けた。

「愛していますアリシア。神の花嫁なんかではなく、僕の花嫁になってください。
 そして、どうか僕を愛してください」

「……うん」

 難しいことをあれこれ悩んでも仕方がない。人にはきっと、その時に必要な流れというものがあるのだ。
 これから起きることは、またその時に考えればいい。

 大丈夫。未来は明るい。
 幸せに笑う自分の姿が見えた気がして、アリシアは降ってくる口づけを瞼を閉じて受け入れた。





 おしまい。



 ……あれ、もしかしてこれって、また酩酊状態になるんじゃない?


 fin
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