生贄になる予定が魔界の王子に頭突きを食らわせてしまいました
「……っだあぁぁぁぁっもう!! なんで、なんでなの私! 声が出ないのならせめて履いてた靴飛ばしてあのハゲジジイ(※大神官)の頭にぶつけてやれば良かったのにっっ!」

 そう叫びながら粗末なベッドを殴りつける少女は、三日間幽閉されていたとは思えぬ程に生命力に溢れていた。

 少女の名前はアリシア・メルギス。

 月を神の象徴として信仰するこの国の巫女だ。


 ――青い月の夜が七晩続いた時に神の花嫁は選ばれる。


 それは古から伝わる神の言葉。
 そして神はこう続ける。


 ――もしも花嫁を捧げなければこの国は滅びるだろう。


 花嫁などと言葉を飾っているが要は生贄だ。七晩目の青の月夜に神殿で毒を飲まされるのだ。

 本来は七晩目の青の月夜に神殿で花嫁が祈りを捧げると神のもとへ呼ばれその姿は忽然と消え国に繁栄と平和が約束される。と言うのが正式な言い伝えらしい。

 祈りが届かず神のもとへ召されなかった場合は自ら毒をあおり魂を肉体から解き放つ。

 しかし、6才の時に両親を事故で亡くし孤児として神殿に身を寄せただけのアリシアは他の巫女たちと違って神の存在など信じていなかった。

(神様が本当にいるのなら父さんも母さんも事故でなんか死ななかった。それにそんなの、例え神のもとに呼ばれたって、突然消えて二度と戻って来ないなんて死んじゃうのと同じようなものじゃない……)

 大国ユーンブルグ。
 この国は青い月夜が続くたびに少女を犠牲にしてきた。

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