嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
「それが、最初の被害者が訴えた直後に海外に逃亡したらしい……」

 警察はもちろん行方を追っているが、海外に逃げられてしまった場合時間がかかるのが常らしい。
 美琴はおそるおそる勝司に問うた。

「それで、うちの被害総額は……」
「五千万だ」

 勝司は顔面蒼白だったが、美琴も負けてはいない。聞いた瞬間、さぁっと全身から血の気がひいた。

「ご、五千万……」

 小さな呉服屋にとってはとんでもない額だ。この額を銀行が追加融資してくれるとも思えない。

「どう考えても無理だろう。警察があいつを捕まえる前にうちが潰れちまう」

 勝司はがくりと肩を落としてうなだれた。励ましたくても、勝司の言う通りだ。美琴も返す言葉がなかった。

「それにな、金はまだいいんだ。俺の内臓を売りさばいたっていい」
「それは絶対ダメ」

 店は大事だが勝司の命とは引き換えにはできない。美琴にとっては、たった一人の家族なのだから。

「それより、うちで預かっていた大切な子達をあいつに持ち逃げされた。和服は海外の闇オークションでも高値がつくらしくて戻ってくるかわからないと」
「そんな……」

 勝司は詐欺師に言われるがまま、着物を何点か貸し出していたのだ。新規の顧客になりえそうな人物に紹介するという話だった。

「俺が馬鹿だった。大切な商品を知り合ったばかりの人間に渡すなんて」

 でも美琴だって勝司を責められない。一度会っただけだが、彼はとても誠実そうな人間に見えた。いや、だからこそ詐欺師ができるのかもしれないが。
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