嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
「お弟子さんじゃなかったんですね」

 美琴はちょっと不満気に口をとがらせた。だって、この屋敷で会ったとき彼は否定しなかったのだ。まさか礼本人だったなんて、悪趣味が過ぎやしないか。

「そうだとは言ってないぞ。それを君が勝手に勘違いしただけだ」

 丸代から聞いていたとおり、礼はちょっと偏屈なところがあるようだ。

『無愛想で、偏屈で、気難しい人よ』丸代はいつもそう言っていた。その言葉のイメージから、美琴は礼をもっと年上の四十歳くらいの男性だと想像していたのだ。目の前にいる実際の礼は美琴よりは上だろうが、思っていたよりずっと若い。まだ三十歳くらいじゃないだろうか。

「あそこでなにをしていたんだ?」

 銀行の前で騒いでいたことを言っているのだろう。美琴は答えに窮した。御堂家は大切なお得意様だ。どこまで話すべきなのかすぐには判断できなかった。

「融資を断られたか?」
「うっ……」

 完全に図星だった。まぁ、あの騒ぎを見れば勘のいい人物ならすぐにそうと予想はつくだろう。

「まぁ、色々とありまして」
「詐欺師にいくら騙された?」

 美琴は驚いて、まじまじと礼の顔を見つめた。

「別にエスパーじゃない。人の不幸は密の味ってやつだな。そういう噂はあっという間に広まるもんだ」
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