嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
 食事はとても豪華だった。高級料亭で出てくるような懐石で彩りも味も文句のつけようがない。それなのに、美琴の箸はなかなか進まなかった。

「口に合わないか?」
「いえ、すっごく美味しいです」
「じゃ、なんで食べないんだ?」

 とんでもなく非常識な同居生活の初日に、満腹になるまで食事ができるほど美琴の神経は図太くない。けれど、それは礼には理解できないようだった。なので美琴ははっきりと言葉にする。

「戸惑いと緊張と不安と、その他諸々でいっぱいいっぱいなんです。この美味しいごはんは、他の日に食べたかったです」

 美琴の答えを聞いた礼は、ははっと声をあげて笑う。

「君はなんでも正直に話すんだな。面白い」

 褒められたのかバカにされたのか、よくわからなかった。

「緊張なんて最初だけだ。すぐに慣れる。慣れてもらわなきゃ困るしな」

 美琴は胃がぐっと重くなるのを感じた。キリキリと痛むような気もする。

「そういうことを言われるとよけいに不安になるので、やめてください」
「君を見習って、正直な本音を伝えただけだ」

 礼は悪びれない。

「食事を終えたら、風呂に入れ。浴衣を出しておくから。俺は先に寝室にいる」

(お風呂……夜……一緒の寝室……)

 わぁ〜と叫び出したい衝動を、美琴はなんとかおさえこんだ。
< 31 / 107 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop