嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
 寝室へとつながる襖の前で美琴は立ち尽くしていた。もう三十分くらいは経っただろうか。どうしても、どう頑張ってと、この襖を開ける勇気が出ないのだ。

(本当に、本当に、そういうことになるわけ? 令和になったこの現代日本で?)

 考えれば考えるほど、自分の選択は間違えていたような気がしてくる。

(いくらあきづきのためとはいえ、初めてなんだよ? こんな形で失っていいの?)

「に、逃げよう。奇跡がおきて、宝くじが当たるかもしれないし。そしたら五千万だって返済できる!」

 そんな都合のいいことを考えて美琴はくるりと襖に背を向けようとした。と、その瞬間、ガラリと襖が開いた。

「ぎゃあ!」

 驚きのあまり美琴は腰を抜かして、その場にへたりこんでしまった。

「なんだ、いたのか」

 礼は少し呆れたような顔で美琴を見下ろした。

「あんまり遅いから風呂でのぼせてるのかと思った」

 礼は美琴の前にかがみこむと、手を伸ばし頬に触れた。

「冷えてる。ずっとここにいたのか」
「ごめんなさい。その、どうしても部屋に入る勇気が出なくて」

 美琴はうつむき、消え入りそうな声で言った。

(五千万出してもらって、逃げようとしたとはさすがに言えない)
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