嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
「美琴っ」

 きゅっと手首をつかまれ、振り返るとそこに礼がいた。

「どこに行く? はぐれるから俺のそばを離れるな」
「あ……ちょっと化粧室に。だから手を離してください」
「その前にひと言だけ言わせてくれ」

 今にも泣き出しそうな顔を礼に見られたくはなかった。けれど、彼は有無を言わさず美琴の頬を包みこみ自分のほうを向かせた。至近距離で視線がぶつかる。

「誤解するなよ。俺が篠宮まりえと婚約することも結婚もすることも絶対にないからな」
「で、でもっ」
「関係のない第三者があれこれ口出ししているだけだ。そもそも御堂は、これ以上篠宮と縁続きになるのは避けたいと考えている。感情ではなく政治的判断だ」

 礼が嘘を言っているとまでは思わない。でも彼はきっと知らないのだろう。関係ない第三者以外にも結婚を望んでいる人物がいることを。

(でも、まりえさんはその気だった。きっと礼さんのこと……)

 トイレの個室に入った途端、美琴の両の目にはうっすらと涙が滲んだ。
 最初からわかっていたことだ。何度も自分に言い聞かせていたじゃないか。

 自分と彼とはとても釣り合わない。礼にはもっとふさわしい女性がいて、いつかはそういう相手と結ばれるのだろうと。

「でも、いざ目の前に突きつけられると……やっぱりきついなぁ」






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