嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
 弁解したくても、もう完全に被害者はまりえで美琴は悪役の空気だった。なにを言っても言い訳じみて聞こえるだけだろう。

「とにかく、すぐに氷を」

 美琴にそう指示を出す礼の声も、これまでに聞いたことないほど冷ややかだった。美琴が氷と救急箱を持って戻ると、礼は無言でそれを受け取った。テキパキと手当を済ませていく。

「大丈夫ですか?」
「はい。礼さんの手当のおかげで、痛みはひきましたわ」

 そう言って微笑むまりえは天使のように愛らしかった。美琴は負けを確信する。

(うっ。この人には到底かなわない。ぶりっ子とか、そういうかわいいレベルじゃないもん)

 演技派女優もびっくりの役者ぶりだ。まりえの演技はなおも続く。

「でも……もし、傷が残ったらどうしましょう。嫁入り前ですのに」
「この程度なら痕が残ることはないと思いますけどね。万が一残っても……なにも気にすることはないでしょう」
「そうですか? 礼さんがそう言ってくれるなら」

 次の瞬間、礼はぞっとするほど冷たい表情を見せた。

「小さな傷痕なんかより、そのどうしようもなく醜悪な中身のほうがよっぽど目立ちますよ」
「え?」
「え?」

 美琴とまりえは同時に同じ言葉を発した。
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