嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
「どっちにしても礼さんは困るよね」

 美琴のお願いは契約違反にほかならない。それに、彼に話を切り出せない本当の理由に美琴自身は気がついていた。

 怖いのだ。自分が傷つくのが怖いから、ただ先延ばしにしてしまっているだけ。

『子供は欲しいが、君はいらない』

 彼の口からはっきりとそう告げられたら、もう立ち直れない気がする。

「もぅ〜なんてバカな契約をしちゃったんだろ! でも、あの契約がなければこの子は存在しないわけで……」

 ようやく膨らはじめたお腹を撫でながら、美琴は考えた。契約さえなければ、こんな苦しい思いはしなくて済んだ。でも、礼を知らず赤ちゃんにも会えない人生になっていたはず。それはそれで、つらすぎる。

「意気地なしのダメなママでごめんね」

 思いがけず涙がこぼれた。お腹の赤ちゃんに心底申し訳ない気持ちだった。
 
 結局、礼の前ではカラ元気を見せるだけの日々が続いた。礼も美琴の様子がおかしいことに気がついてはいたが、妊娠による不調のせいだと信じているようだ。
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