嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
 実際に妊娠するまでは、礼のことしか頭になかった。礼と一緒にいたい気持ちと、少しでも早く元の生活に戻って礼を忘れるべきという理性の間で揺れていた。
 でも、今の心境は全然違う。まずなによりも、お腹の赤ちゃんと離れ離れになるなんて耐えられそうにない。お腹のなかで確実に成長している我が子への母性が、美琴には芽生えはじめていた。

(ママになる喜びも実感もまだ全然だけど……でも、この子と離れては生きていけない。それだけははっきりとわかる)

 今後のことを礼と相談するべきだとわかっていても、美琴はなかなか話を切り出すことができなかった。

 本当はこのままずっと、礼と産まれてくる赤ちゃんと一緒に暮らしたい。礼にそうお願いしてみようかと思うこともある。彼は優しいから「うん」と言ってくれるかもしれない。けど……礼の両親や御堂家の関係者はきっと許してくれないだろう。

(せめて、この子だけは私と一緒に……)

 それが美琴の切実な願いだったが、そうなればあんなに妊娠を喜んでくれた礼から赤ちゃんを奪うことになる。


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