嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
 美琴はチケットを見て、歓声をあげた。

「これ、行きたかったやつです! 着物の歴史展覧会」

 室町時代の小袖から歴史上の人物が実際に着用していたもの、現在デザイナーがつくる最新流行の着物まで、着物の歴史がすべて網羅されている素敵すぎる展覧会だった。妊娠のバタバタで開催期間に入ったことをすっかり忘れていた。

「それはよかった。ただ、絶対に無理はするなよ。具合が悪くなったらすぐに言うこと」
「わかってますよ~」

 礼に子供扱いされて、美琴はちょっとむくれた。そんな美琴を見て、礼はふっと頬をゆるめる。

「心配なんだ。君は意外と強情なところがあるから」

 礼は美琴の肩を抱き寄せると、耳元で小さくささやいた。

「夜は素直なのにな」
「れ、礼さんっ」

 美琴の顔が真っ赤に染まっていく。赤く色づいた頬に礼はそっと唇を寄せた。

「体調が万全になるまではこれで我慢しておく」

 少年のような彼の笑顔に美琴の胸はきゅんと甘くうずいた。これ以上好きにならないようにと必死で気持ちを抑えているのに、彼はほんの一瞬で美琴の心を奪っていく。
< 83 / 107 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop