嫁入り前の懐妊契約~極上御曹司に子作りを命じられて~
 展覧会の会場を出た美琴は、恍惚の表情を浮かべている。あの素敵な世界から、なかなか現実に戻ってこれない。

「満足したか?」
「はい。もうっ、最高でした!!」

 ぱっと華やかな京友禅、たおやかで優しい加賀友禅、シックでモダンな大島紬。どれこれも素晴らしく、美琴にとっては至福の時間だった。

「あ。あの篤姫の婚礼衣装も素敵でした。ウェディングドレスも憧れるけど、やっぱり和装の花嫁さんは最高ですよね~」
「そうだな。君は洋装より和装が似合いそうだ」
「って、私ばっかり楽しんでしまってすみません」

 礼は楽しめただろうか。男性にはつまらなったのではないか。美琴はようやくそこに思い至った。礼は笑って首を横に振る。

「俺も着物は好きだから楽しかったよ。ただ……」
「ただ?」
「初デートの場所としては少し失敗したなと思っていた」

 礼は美琴の顎に指をそえると、くいと自分のほうへと顔を向けさせる。

「君は着物ばかりでちっとも俺を見てくれない。モノに嫉妬したのなんて初めてだ」
「嫉妬って」
「だから、この後はふたりきりになれる場所に行こう。俺だけを見てほしいから」

 艶のある声で、色気たっぷりの表情でそう言われて、美琴はドギマギしてしまう。
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