消えない傷・消えない痛み
五話

**まさか


美桜は翌日には退院した。

両親やお義母さんから
暖と暮らしていた部屋をでては?
と、言われていたが
美桜は、もう少し暖といたい
と、答えたようだ。

凛は、大学の仕事が終わると
美桜の部屋へ通い
美桜の様子を見るようにした。

美桜は、時々、寂しげな顔をするが
食事も取り、寝るようにもなった。

寝ていても涙が流れる事はあるが
四十九日に納骨をして
仕事に復帰する事になっていた。

まあ、今でも家で
データを打ち込んだりしている。
本人は気が紛れるから
と、言っているが·····

あのへぼ教授のやりそうな事だ。
美桜は、教授の優しい所です。
と、言ってくれた。



無事に納骨が終わり
美桜の両親は、
実家に戻るように話していたが
美桜は、
「今の仕事が好きで
教授や凛さんから離れたくない。」
と、言った。
暖の母、里子からは
「一緒に暮らさないか?」
と、言われたが
「今は、暖と暮らした部屋で
生きて行きたい。」
と、言う美桜の言葉が尊重されて
美桜は、今で通り
暖君と暮らした部屋から
仕事に通い始めた。


教授を始め、大学のスタッフ
みな、優しく接してくれて
美桜は、嬉しかった。


だが·······

ひと月を過ぎた····だろうか·····
美桜が仕事中に倒れて
凛が駆けつけると
美桜は、妊娠していることが
わかった。

妊娠二ヶ月
無論、暖の子だ。

美桜は、涙を流して喜んだ。

あの日·····

暖から······

「本当は、美桜の身体には
触らずに行こうと決めていたんだ。
何度も抱きたい衝動を抑えたんだ。
だけど、一度だけ
抱きたい。」
と、言った。
美桜は、暖の手を握りしめて
「私も暖に触れて欲しいし
暖に触れたい。」

暖の身体は、痩せてしまっていたが
暖は、愛おしそうに
美桜の身体に優しく触れ
「美桜、綺麗だ。
俺が美桜を抱けるなんて」
と、言いながら美桜の身体中を
愛撫していく·····

病室のベッドの上で
狭い中、二人は幸せを噛み締めていた。

弱っている筈なのに
暖は、美桜を力強く抱き締めた。

明け方まで身体を繋げて
美桜は、暖の身体と自分を綺麗にする。
暖は、疲れたのか
そのまま眠ってしまった。

そんな暖の顔を見つめて
最後なんだと·····思い····
涙が····溢れたが······
暖の温もりを忘れずにいたい
と、自分の身体を抱き締めた。


美桜は、あの時
暖が、どんな気持ちで
話してくれたのか····と、思うが
暖に抱いてもらって良かった。

正直、伊織との関係で
抱きたくないのかと
少しだけ思っていたから。

暖と私の赤ちゃん
大切に大事にしたい。
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