朝戸風に、きらきら 4/4 番外編追加
「はい。」
滲みすぎた視界のままに、恐る恐る顔を上げたら軽く空気を揺らして笑われているようだった。
「お前、俺のとこで働け。」
「……は、」
「このまま放っておいたら、
ろくに食べないで野垂れ死にそうだしな。」
「失礼な。
大丈夫です、ちゃんと食べられます。」
「お前はすぐ嘘つくから、簡単に信じない。」
もはや私の反論が言い終わる前に重なった言葉は、あの日と同じものだった。
そしてやっぱり、上手く喉を通っていかないパンをただ手にしているこの状態も、那津さんの言葉を助けてしまう。
「働くって…、」
「個人事務所だけど。
設備とかまだ全然不十分だし此処からもっと色々忙しくなる。アシスタントが欲しい。」
「……で、でも私一応、休職中の身です。」
「知ってる。給料出てないんだろ。
働くの、お前にとっても悪くないと思うけど。」
「………。」
それは、悪くないどころか。
____私にしか、メリットが無いように思う。
そう伝えたら暫し逡巡して、
「青砥。
俺に悪いことしたってまだ思ってんの。」
切れ長の鋭い眼差しは、私から本音を引き摺り出す。こくりと頷くと、溜息の後、その薄い唇を再び開いた。
「…じゃあリスク背負って。」
「…え?」
「休職中に他の仕事すんの、まあまあグレーなとこだから。そのくらいのリスクは負ってもらう。
バレたらクビかもな。」
休職中に働くことは、確かにタブーなのかもしれない。
でも私は、もうあの会社に必要とされていない。
「自主退職」を促すための休職だと分かっている。
そんな女が何をしていようが、会社も特に気には留めない。全然、リスクでもなんでも無い。
だけど、
「陰鬱と家で過ごすくらいなら、俺のこと手伝って。」
そんな風にまた、悪戯の作戦でも話をしているかのようなあどけなさで伝えられて、私は断る術を持ち合わせなかった。
____嘘だ。
もうこれ以上巻き込んだりしない。
迷惑はかけられない。
そう思っている筈なのに。
"この人の側に居たい"と、身勝手な気持ちを突き進めることを、選んだだけだ。