朝戸風に、きらきら 4/4 番外編追加
「_______え?」
「…間抜け顔。」
「那津さん、冗談やめてください。」
「冗談じゃ無いけど。」
「……、」
________
案内したパン屋のイートインスペースで、2人向き合って座る。お目当てのカレーパンは焼きたてで、香ばしい匂いに久しぶりに朝から少し食欲を感じた。これなら食べられるだろうか。
「那津さんは今もずっと、会議室に朝までこもってるんですか」と、この人に会いに行っていた朝の日々を思い出しながら何の気無しに尋ねたら、
「___いや?俺、会社辞めたから。」
そうサラリと伝えられた言葉に、手に持っていたパンを落としそうになった。
________
「なんで、」
「そんな驚く?お前の前でも言っただろ。
もう俺は、あいつらに俺の名前は貸さない。」
なんの躊躇いも後悔も感じさせない声で告げた後、割と豪快にカレーパンにかぶりついた那津さんをただ、じっと見つめるしか出来ない。
「……那津さん、駄目です。」
「何が。」
「こんな、タイミングで、」
震える声でも、この切実な気持ちは届けたかった。
那津さんくらいの実力があれば、フリーランスで活動するようになることも不思議じゃない。
実際、数年の勤務の後にそういう形を取る人は居る。
___だけど、"こんな形"は、絶対に違う。
あの大手の代理店と関係を悪化させての退職なんて。
ずっと磨いて、重ねてきた
那津さんの大事なキャリアが。
1案件の、1担当者の厄介ごとに巻き込まれて
傷が付くなんて、そんなの絶対にダメだ。
「……これ、何?」
私の意見を聞き終えた男は、スマホを取り出してずい、と画面を見せる。
《那津さん、本当に申し訳ありません。》
それはメールの本文で、"あの日"私が謝罪を送った時のものだった。
「お前は、謝るようなことをいつしたの。」
「……、」
「意味が分かんなかったから無視した。
まあ後は、独立の準備でバタついてたのもある。」
「那津さん、」
弱りきった声で、馬鹿みたいに名前を呼ぶしか出来ない私に、困ったように微笑みを作った彼は「なんつー顔だよ。」と揶揄う。
____巻き込んでごめんなさい。
私にはやっぱり、謝罪しか無い。
溜まり始めた涙が、瞼を膨らませていく。
瞬きも身動きもできないまま、視線を落としていた私に優しく「青砥」と声がかかった。