朝戸風に、きらきら 4/4 番外編追加



「…あとは、恋愛関係の話もしとく。

俺はどう考えてもお前が好きだけど、 
お前はどうなの。」


急な直球に、目を見開いて数回瞬きをするけど視線は逸らせそうにない。

もう誤魔化せる筈もないと、火照る顔の熱を感じながら、激しく波打つ鼓動の中で、意を決して口を開いた。



「す、好きです。」

「だよな。」

「…え。何その反応。」

「今の赤い顔もだけど。

毎日あんな気許した可愛い寝顔見せといて
俺のことなんとも思ってないって言われたら
人間不信なるわ。」


喉の奥でクツリと笑うその仕草は、大人のくせに。

まるで子供みたいに嬉しそうに瞳を三日月に変える男を見ていたら、また鼻の奥がツンとして、涙が増えた。


「……寝てない。起きてた。」

「は?」

「うれしかった、」

「……」

「おはようさえ、うまく言えなくなった私の代わりに、依織が毎日”その”って呼んで、起こしに来てくれるのが、嬉しくて、いつも待ってた……、」


自分の心のありのままを、 
もう絶対、間違えることのないように。

だけど、「伝わってほしい」と思えば思うほどに、
言葉が上手くまとまらないのは、どうしてだろう。


「…また泣く。」


困ったように破顔した男が、私の今の様子を静かに言葉にしながら、今度は親指の腹で優しく目尻を拭ってくれる。

心を満たしてくれるこの温かさを、
抱きしめていたい。


「その。」

「……、」

「…毎日完璧な自分じゃなくて良い。

俺が言って、お前がそれに応えようとして、
朝から怖い思いをまたさせんの嫌だと思ったら
言えなかったけど。

元気な”おはよう”ばっかりじゃなくて良いから。

前みたいに、俺も朝一番に
お前の"おはよう"、聞きたい。」




『ねぼすけ、起きろ。』
『…まだアラーム鳴ってません。』
『あともう1分で鳴る。』
『じゃあ1分後に起きる。』
『やかましい。起きろ。』
『……』
『……』
『なんですか。』
『…別に。』


ああ、そうか。

この人は、毎朝ずっと。

無理に促すことは絶対しなかったけど。
だけど私のこと、待ってくれていた。



誓うように首を縦に振って何度も頷いたら、
安堵の息遣いが届いた。


そして「早くマンション解約して俺のとこに来て」と些か性急な提案を受ける。


「この2か月で、まあお前の採点は甘過ぎるけど、
うまく朝食も作られるようになったらしいし?」

「…これからも作ってくれるの?」

「俺が先に起きたらな。」

どうやら引っ越しをすれば、
素敵な条件まで付いてくるらしい。


「なんならウインナーもタコにして出しますけど。」

「…それはちょっと、
依織が急にしてきたら、怖いかもしれない。」

「ふざけんな、お前が言ったんだろうが。」


一気に不機嫌な表情になった男が、なんでもない朝の会話を律儀に覚えていたのだと思ったら、可笑しくて、愛しくて仕方ない。



思わず吹き出すように笑ったら、急に視界が暗くなって、そのまま軽く触れるだけの熱が唇に落とされた。

まだ男の両手に顔を固定されたままの私は、鼻先が触れ合う距離で、こちらを悪戯な笑顔を携えて見つめる男と視線を交わすしか無い。


突然過ぎて、感じた気持ちのままに「不意打ちはやめて」と文句を言おうとしたら、それを予期していたらしい男に、今度は噛み付くみたいな荒さを保ったキスをくらった。



「…い、色々、目まぐるしくて、
着いていけません。」

「あほか、こっちからしたら待ち過ぎたわ。
もうここからは一切遠慮しないからな。」


やっと唇を離してくれた男に呟いたら、満足そうに、若干不安を抱く宣言を受けて。

だけどまた、ぎゅう、と抱きしめられたらその温もりに涙が出て、私も必死に背中に腕を回した。



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