朝戸風に、きらきら 4/4 番外編追加
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×社のオリエンテーションに行った結果、
抱いた感想は「クソ案件」だった。
向こうが本気じゃないプロモーションに、
こっちがやる気なんか、出るはずもない。
どいつもこいつもと、そう思えば当然、
デザインをつくる士気なんか下がる。
それでも、これも一つの通過点だと、いつもならそういう割り切った考えで制作をしていたと思う。
「那津さんって本当に、
どれだけ作品つくられてるんですか?」
「何見てんの。」
「自分でまとめた、那津さん作品ギャラリー」
「こわ。」
いつものようにやって来た女に手渡された朝食のサンドウィッチ片手に尋ねたら、平然とパソコンを見つめながらそんな返事を受けて、自然な感想が漏れた。
「全部、すごいなあという月並みな感想しか持てなくて申し訳ないんですけど、」
「まあ正直で良いんじゃない。」
「私、那津さんの作品だと
あれが一番好きかもしれないです。」
「どれ。」
「あの、化学繊維メーカーの周年広告ですね。」
本当にサラッと、それこそ朝の挨拶のように告白された言葉に、飯を食べる手が一瞬止まるほどの動揺をしたけど、青砥は悟っていなかった。
「…民放のCMもしてないのによく知ってんな。」
「そりゃあ企業研究の時に”那津 依織”のいろんな作品、見ましたから。
でもあれは、那津さんのデザインだけじゃなくて、キャッチコピー含めて、凄く好きですね。」
まるで、覚えてますか?と。
そう尋ねるような声色で言われて、やはり言葉は直ぐに出なかった。
___その作品は、
こっちだって絶対に、忘れられそうに無い。
入社してさほどまだ、実力も示せていなかった時代。
皇から話を受けて、今じゃ考えられないくらいの大きな熱量を持って創り上げた作品だった。
だけど、結果として
その"全て"は、認められなかった。
『デザイン"は"、採用する。ただしコピーはあくまで
ライターが考えたものにして、クレジットを明かさないこと。
お前は、デザイナーなんだから。同じ会社内でのことだし、"それが誰のものか"なんて、そこまで関係ないだろ?』
それなら嘘でも見栄でも、その大御所とやらの、別のコピーライターのものを使うと言われた方がマシだった。
二度と、余計なことはしないと決めた。
こんな惨めな気持ちになるなら二度と、
こいつらに真っ向からの勝負なんかするか。
お前らが俺の"デザインだけ"を、見るなら。
俺だってそれ以上のものをつくったりしない。
そう思っていたのに。
「……那津さん?」
無反応な俺に違和感を抱いたのか、今日もパリッとした皺のないジャケットを羽織った女が、目を丸くしてこちらを見つめていた。
顔立ちは歳にしては幼く見えて、それが余計に、
邪気の無さをこちらに嫌と言うほど伝えてくる。
____それを、
捨て置いていけそうに無くなっている。
「……お前見る目あるじゃん。」
「え、何ですか急に。偉そう。」
「別に?3年目のペーペーアカプラが担当してる案件、ちょっとやる気出たって話。」
「こんなに朝ごはん献上してるのに、まだやる気
ちょっとしか出て無かったんですか。衝撃。
早くデザインください。」
「お前ね、俺は結構忙しいって知ってる?」
デザインを心待ちにしている気持ちが前面に出た最後の女の言葉に笑いながら聞き返したら、呼応するように「ごめんなさい、正直者で」と破顔する。
朝にぴったりの笑顔を携えた女と過ごす、
たったの数十分は、変な時間だとは思う。
だけどいつの間にか、早朝に「そろそろか」なんて、時間を確認する癖がつき始めたのは、この頃からだった気がする。