朝戸風に、きらきら 4/4 番外編追加
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「…おせえ。」

誰も存在していない会議室で、
自分の声がよく響く。

部屋の小さなルーバー窓からでもちゃんと差し込む光で、今日の朝の天気だとか時間の流れとか、そういうことを知る自分自身を、全く想像していなかった。




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昨日、ラフを4案考えたと青砥にメールをしたら光のスピードで電話がかかってきた。


"出来たんですか!?"

「言っとくけど、ラフのラフな。」

"すぐ見たいです…!!"

「あー俺、今から外で打ち合わせ。」


ええ…とあまりにもがっかりした気持ちを乗せた返事が妙に可笑しかった。

きっと会社でソワソワしてこの話を聞いているのだろうと思ったら、胸の奥が疼く感覚を知る。



「夜中は、また会社で作業してるから。
明日の朝、お前に1番に見せる。」

明日朝一番に行きます、と当たり前のように伝えられたら、打ち合わせ先へ向かいながら表情がもっと緩んでいくのが分かった。


"朝、何食べたいですか?
美味しい朝ごはん作ります。"

「ステーキ。」

"…言いましたね。"


ガーリックステーキにしよ、と戯けた宣言をしてくる女に伝えそうになって、引っ込めた言葉を自分の中だけで消化した。

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そして、迎えた早朝。
宣言した女の、いつものような煩いノック音はまだ届かない。

ラフを刷り出して、パソコンを操作していたがいまいち集中が乗り切らない。


このなんとも言えない焦燥感は、
あの女に通じているのかと思うと戸惑う。


コンビニ行くか、と立ち上がって何気なくドアを開けると、ゴン、という鈍い音と共におでこを抑える女が居た。

その姿を前にすると、なぜか酷くホッとしている自分がいて、そのことを誤魔化すように、女の額の心配をして気持ちを逸らそうとした時だった。



「……は、?」

「す、いません、」


いつもいつも、煩いくらいのノックと挨拶。

それらを携えて、笑っていた女の丸い瞳から
確かにぽたりと、涙が伝ったのを見た。


なんでもないと告げる青砥の細い腕が、
やけに頼りなくて。

引き寄せたらあっという間にこちらに倒れ込む
その小さな身体、それ一つで。



ずっと戦わせていたのだと、
そこで漸く気付いた俺は、どこまでも馬鹿だ。


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