朝戸風に、きらきら 4/4 番外編追加
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"…今、なんて言った?"
「だから辞めた。」
"……会社を?"
「そうだって言ってんだろ。」
急過ぎてついていけないと、戸惑う男の様子を電話越しに感じながら、俺はとある駅に辿り着いていた。
コンビニの前で立ち止まる、静けさに包まれた早朝。
今までなら、確実に眠りこけていたのが
大半の時間帯だったと思う。
"いつか独立するかもとは思ってたけど。
何でまた急に?"
「皇の会社のデザインやった時、体裁ばっかり取り繕う会社に気づいて、もう当然コピーなんか作らないし、デザインに専念して独立するまでの仮住まいって決めてたけど。
…”デザインもコピーも好きだ"って、
久々に言われたらやっぱり普通に、嬉しかったわ。」
"…そういう風に言ってくれる人が居たんだ?"
自分の見立て通りだったことが嬉しいのか、揶揄ってもいるのか。
楽しげな皇の声に苦い顔になりながら、
「フリーになったら、俺は全部を1人でやる。」
会社を辞めて、事務所の準備を進める中で決めたことを告げた。
"なんのしがらみも無く、お前に仕事の依頼出来るの助かるな。
でも1人で大丈夫なの。大変だろ流石に。"
「……1人、連れて行きたい奴が居る。」
"え。アシスタント?"
「でも無理強いは出来ない。
来たいって思ってくれるなら、引き抜きたい。」
"え、お前がそんなこと言うの珍しい。どんな人?"
「……元気と勢いでパワーがある感じ。」
"へえ?ますます珍しい。苦手そうじゃん。"
「…その鎧で、傷を隠す女。」
"……女?"
『忙しい那津さんに、無茶をお願いして沢山、朝も、時間を割いていただいてたのに。
無駄でした。そんなの、必要無かった。
私が共有してきた先方の要望も、デタラメでした。』
あの日、震える声で俺に謝ってきた青砥の痛い顔が、脳内で鮮明に再生される。
俺の作品とか、そんなことどうでも良い。
「大丈夫」って笑ってたくせに、
お前、嘘ばっかりじゃん。
怖いってちゃんと言えよ。
そのことに苛立って、
だけど、気付かなかった自分に1番苛立った。
"依織。それ、詳しく聞きたいんだけど。"
「無理。じゃあな。」
むしろ、この厄介な男に口を滑らせ過ぎた。
一方的に会話を終わらせたスマホで、今度は先程まで話題にしていた人物にコールを鳴らす。
"も、しもし…?"
出てくれたことへの安堵で、少しだけ体から力が抜けた。でもその声は、あまりにも頼りない。
「青砥。今どこにいる。」
その後、強引に部屋から連れ出したら、元々細身の女が、今にも消えそうなくらいの儚さを持ち合わせて姿を現す。
「俺のところで働け」と、朝食のパンさえ喉をうまく通らない青砥に、勝手に言葉は出ていた。
"でも無理強いは出来ない。
来たいって思ってくれるなら、引き抜きたい。"
嘘吐きなのは、こいつだけじゃない。
俺も同じだ。
俺が会社を辞めたことへの罪悪感を持つ青砥を、
無理矢理に、繋ぎ止めた。