朝戸風に、きらきら 4/4 番外編追加
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事務所に初めて青砥が来た日、
そのおでこに再びドアを直撃させてしまった。
蹲み込んでいる女は、こんなに小さかったのかと
その時になってやっと思う。
「…朝ごはん、作ってきました。」
「……」
「いつも、通り、那津さんのこと起こそうと思ったんですが、」
震える声で、作ってきた朝ごはんの入ったバッグを握り締める青砥を、抱き寄せようとして伸ばした手がぎりぎりのところで空気を掴んだ。
どこまでなら、許される。
頭をフル回転させて、
必死にかけても良い言葉を探す。
"朝、何食べたいですか?
美味しい朝ごはん作ります。"
"ステーキ。"
"…言いましたね。"
あの時、言おうとして引っ込めて自分の中だけで消化した言葉は、もう誤魔化せない意味が込められている気がした。
別に何も持って来なくて良い。要らない。
お前が笑ってたら、それで良い。
それは紛れもない本心で、
だけど俺と青砥の間には、成立しない言葉だ。
"同僚"として、"上司"として。
____どこまでなら、こいつに近づいても許される。
「俺も流石に事務所構えて社長やるなら、今までみたいな生活習慣、まずいだろ。
朝ちゃんと起きてここに出勤して、朝ごはん作って食う。そういう規則正しい生活のためのリハビリ。
お前、付き合え。」
無茶苦茶な辻褄合わせだ。
不自然過ぎる提案に、「上司にそんなことさせられない」と首を縦に振らない女に畳み掛ける。
「じゃあ朝だけは、上司やめる。」
「は…?」
「それで良い?」
「…無茶苦茶です。」
「ずっと朝ごはん俺に渡してたんだから、
お礼くらい大人しく受けとけ。」
「……那津さん、変です。」
そんなこと、こっちも分かってんだよ馬鹿。
でも、せめて。
「その。腹減った。」
"上司じゃない朝"だからと、名前を呼んだら涙で濡れた瞳が丸みを帯びてパチパチと、睫毛を揺らす。
それ、食わせて。
と持ってきた朝食を指さしたら、困ったように笑って頷くその に、ホッとするこの感情の領域は上司をとっくに超えている。
でも、せめて。
お前が、ちゃんと朝と向き合えるようになるまで。
自分を言い聞かせるように心で繰り返して、
くしゃりと触り心地の良い目の前の女の髪を乱した。