朝戸風に、きらきら 4/4 番外編追加
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不規則な生活が骨の髄まで染み込んだ人間からすれば、朝起きるところから、それなりに難儀な話だ。
決められた時間に目を覚ますことを、今まで全く意識していなかったから、とてつもなくアラームの音が億劫に聞こえる。
「…あー、だる、」
自室のベッドに横たわりながら、けたたましく鳴ったスマホを止めたところで、悪態しか出ない。
カーテンに遮られた薄暗い中では、今日が晴れなのか、曇りなのか、それとも雨なのかさえ、まだよく分からない。
"いつも、通り、那津さんのこと起こそうと思ったんですが、"
青砥は、「朝」が恐らく怖い。
上手く「おはよう」が言えなくなった。
あの日クソ課長に詰め寄られたあの朝を、どうしても思い出すのだと思う。
いつも何気なく出来ていたことが、出来ない。
そういう歯痒さを毎朝どうしたって思い知る時、
俺はあの頼りない女を、1人にしておけない。
そう思うと重くダルい身体が、なんとかベッドから起き上がる道を選ぶのだから、人間は案外単純だとも思う。
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「……な、那津さん、」
「なに。」
「こんな不思議な目玉焼き、生まれて初めて見ました。」
「お前、その感想は悪気あるよな流石に。」
「貴重だという意味です!!」とぶんぶん首を横に振る女は、若干寝癖のついたまま、襟周りが頼りないルーズなスウェット姿で、無防備極まりない。
ただ卵を割って焼くだけの料理さえ歪にできる自分に溜息を漏らしつつも朝食を並べた。
「その。」
「…は、はい?」
「敬語。」
また戻ってる、と指摘しながら食パンにマーガリンを塗っていると、向かい合って座る女の動きがカチッと止まる。
「…そんな、急には無理です。
逆にどうして那津さんはそんな自然なんですか…」
「……さあ。」
チラリ、目の前の女を一瞥したのをもはや後悔した。
その赤い顔には、どういう意味があるのかと。
無理やりに問いただしたくなる厄介な衝動を抑えるように、コーヒーを流し込む。
「目玉焼き、何かけんの。」
「あ、私は醤油です。」
「ふうん。」
「え、なんですかその感じ。那津さんは?」
「俺は塩だけ。」
「そうなんですか!私もそうしてみようかなあ。」
「……食欲ありそうじゃん。」
「……、」
何気なく、伝えたつもりだったのに。
またしても身体の動きを止めた女を不意に見やると、眉を下げてその丸い瞳が確かめるようにゆっくり細まる。
「…ほんとだ。」
「……」
「私今、塩かけて、この焦げた目玉焼き、
食べてみようって、凄く自然に思いました。」
「焦げたっていちいち付ける必要あんの?」
今にも泣きそうに言うから、内心は焦りながらもそういつものように不満を伝えれば、安心したように息を溢してやっと笑顔を見せる。
「____依織、ありがと、」
その表情に、ぼんやり仄かに、
宿る感情を柄にもなく大事に置いておきたくなった。