朝戸風に、きらきら 4/4 番外編追加
そして、自分の嫌な予感は的中する。
「……依織。」
「ん?」
「…依織、って名前、好きだなあ、私。」
蘭子が事務所を訪ねてきた日の夜、とっくに心地よくなってしまった声がとても丁寧に俺の名前を呼んだ。
なんだそれといつも通りの切り返しで、いつも通りの会話が進むのだと。
そう思った気持ちは、その の表情を見たら一変する。
なんで。
「……那津さん。課長から連絡が来ました。」
「…、」
「復職しないかって、言われて、」
なんで、前向きなこれからを話してるくせに、
そんな痛みを堪えるみたいな顔すんの。
___"新しい道へ踏み出す時に
俺はちゃんとお前の手を離せるのか。"
この女の辛そうな顔は、
別に、此処を離れる寂しさじゃ無い。
これからに対する不安がそうさせるのだと。
言い聞かせながら、女の細い腕を引き寄せたら、あっという間に自分の方へ倒れ込む華奢な身体を抱き留めた。
「那津さん、」
「……何。」
「これは何のハグ、ですか。」
か細い声が遠慮がちに鼓膜を揺らす。
「労いのそれだ」と、
どうしても上司として気丈に言えない自分がいる。
最後にこんな風に触れたことを、
今になって死ぬほど後悔した。
共有する温度は、別に今更知りたくなかった
気持ちばかりを連れてくる。
ふわり、自分が使ってきたのと同じシャンプーの匂いが頬を擽る艶やかな髪から仄かに香る。
こいつに出会ってから感じてきた気持ちは、
際立った大きなものではなくて、
曖昧な中で微かに少しずつ、見えていくみたいな。
始まりだって別に全く、
煌びやかなものじゃなかった。
「心配かけてごめんなさい。もう私、大丈夫です。
_____此処を、出て行きます。」
だけど、時間をかけて確かに見つけた。
小さな愛しい輝きは、
出来ればこの両手の中で大切にしていたかった。
誤魔化しの効かない気持ちが、迂闊に漏れ出たりしないように、心の奥底に埋めるように、そのを抱きしめる力を強めたら、それと同じタイミングで、震える手が俺の服をきゅ、と掴んだ。