朝戸風に、きらきら 4/4 番外編追加
「……は?」
"…青砥さんがなんとか頑張りたいって思ってるのは
会社に戻りたいからじゃない。
那津 依織と一緒に、いつか働きたいからだよ。
那津君は、青砥さんが必死で保っている”意地”の理由を、勘違いしてる。"
「……どういう意味。」
絞り出した声には当然戸惑いが含まれていたが、この女はペースを乱されたりはしない。
冷静に、言葉を続けている。
多分、俺に全てを話すと覚悟をきちんとしてから電話をかけてきたのだと、そこでやっと気が付いた。
"今のままじゃあの人が頼ってくれるアシスタントにはなれないから。
だから、ちゃんと私が改めて会いに行けるまで、無茶する那津さんのアシスタント探しを手伝ってくれませんか。"
そう依頼を受けたのだと。
そこまで聞いて、そのが此処を出て行く前日に交わした会話を思い出した。
『引継ぎ資料、なんとか間に合いました。』
『アシスタントはもう雇わないって言っただろ。』
そう突っぱねたら、困ったように笑って、そのまま続けられた言葉が、今になってやけに引っかかった。
その違和感を頼りに、パソコンのマウスを操作する。
"…那津君?"
引き継ぎ資料を保管したと言っていたクラウドのフォルダの中から、【顧客データ】と名前のついたファイルを急いで開いた。
そして、驚きに目を見張る。
「……なんだよ、この量。」
俺があの女に依頼していたのは、
この2カ月間のクライアント情報の整理だけだ。
見知らぬ会社の名前も、リストの中に山ほどある。
そこに掲載されている依頼内容、どんな担当者だったか、打ち合わせ回数や、なんならコスト試算まで。
これは、お前が頑張ってきた
3年間の大事な証じゃないのか。
『私のただの自己満足です。要らなかったら、データ、捨ててしまってください。』
あいつはどういう気持ちでこの2ヶ月間、
少しずつここを去る準備をしていたのか。
何も気付かない自分が嫌になる。
そしてあの女のことを考えたら胸に迫り上がる感情を無理やりに抑え込むのは、もう、そろそろ限界だと。
心がしきりに訴えている。
"那津君。青砥さんのこと大事で守りたくて仕方なかったんでしょう。
でも「ただ守ってもらって寄りかかって生きていくのは嫌だ」って、彼女の”意地”はそういう意地だよ。"
「……蘭子。」
”なに?”
「アシスタントは要らない。
あと行くとこあるから、もう切るわ。」
”分かった。”
電話越しにまた、笑われた気配がある。
気まずさを抱えて、
「お前はそうやって結局気にかけたりするから、
あんな厄介な男に捕まるんだよ。」
と八つ当たりに近く、だけど正しく指摘してやる。
”…自覚してるし、降参もしてる。
でも、あの人は私のどんなに下手な言葉でも、
一度だって笑ったりしなかった。
それがいつの間にか、
適わないって思うようになった。
だから那津君も、大事につくった自分の言葉を皇には渡すんでしょう?無事に共有されてるけど。
まだまだ甘いね。”
「煩いわ。そして惚気ですか。」
"…那津君はその屈折、どうにかした方が良い。"
照れを含んだ女からの注意を聞いたら、流石にこちらも笑みが漏れた。
「…お前、皇に世話焼きなとこ似てきたんじゃない。」
"じゃあ、これからもっと厄介で面倒なところも似ていくのかもね。"
冗談なのか本気なのかいまいち判断が付かない予想にもう一度笑って、礼を告げて。
必要最低限のものを引っ掴んで、玄関を飛び出した。