朝戸風に、きらきら 4/4 番外編追加
◻︎
お風呂に入って温まったら少しは心臓も落ち着いた気がしたのに、私が出たら「俺も入るから適当にゆっくりしとけ」と頭を撫でてくる依織のせいで、結局、あまり意味が無かった。
寝室に行くのは違う、とリビングに突っ立ってキョロキョロ辺りを見渡していると、サイドテーブル近くに書類が高く均衡を保って積まれていた。
何かしていた方が気が紛れそうだと、それらを整理するために少し手をかけたところで、静かに雪崩が起きる。
あの男の作品に使用した素材や、ラフのコピーだと気づきながら床にも散らばった一部を拾い上げた時。
「……これ、」
あまりに見覚えがある。私が2ヶ月間生活したあの部屋の窓によく似ている。
微かにカーテンが揺れたシーンを切り取ったような優しい絵。
今日、香月さんに送ってもらった時は、スマホの中で見ただけだったから。
たとえば朝、扉を開けて
一番に吹き込む風は、毎日表情を変える。
その風は、
穏やかに寄り添ってくれる時もあれば、
痛みを伴う強さで
容赦なく向かってくる時もある。
その変化を、美しいと思う。
「…ずるい、なあ。」
いつも口の悪いあの男は、作品の中だと、こんなにも真っ直ぐ心を抱きしめてくれる言葉を紡ぐ。
私に伝えてくれたのだと改めて思うと、愛しさなんか簡単に降り積もる。
「…その?」
蹲み込んだまま、じっと暫くそれを見つめていると背後から声をかけられた。
振り返ると、バスタオル片手にまだ濡れた髪のままの男が、直ぐに私のそばまでやってくる。
泣きそうな私に気付いて焦った様子だった依織は、私が手に持っていたそれに気づいて「げ、」とあからさまに嫌そうな表情に変わった。
「…何を勝手に見てんの。」
「…いおり。やっぱり、これ、好き。」
今日のきらきらは、
悲しい涙が織りなす乱反射かもしれない。
明日のきらきらは、
苦しい汗が弾けた一瞬かもしれない。
だって、多分、一生私を支えてくれる言葉だ。
ぽたぽたと、また涙を流しながら心から感じた気持ちを伝えたら、驚いて目を何度か瞬いた男が「もうさっきも聞いた」と擽ったそうな笑顔で涙を拭ってくる。
「だいすき、」
何も深く考えなくても口から溢れるものの方が、本心だったりするのかもしれない。
一言だけ、弱い声でそう呟いたら、困ったように息を吐く男が私の両手を掴んで、そっと自分の首へと誘導してくる。
「…それはどっち。」
「え?」
「作品の話?」
「…どっちも、に決まってる。」
言わせるくせに「あ、そう。」なんて軽く受け止める男はやっぱりずるい。
ぎゅ、と抱きしめられて私も依織の首に回した自分の腕に力を込めたら、その瞬間、急に浮遊感を与えられた。