朝戸風に、きらきら 4/4 番外編追加
地面に付いていた筈の自分の体がふわっと浮いて、視界が一気に変わった感覚に怖くなって、男の首に回していた腕に一層力を込める。
「っ、な、なに、」
「もうそろそろ連行する。」
私の背中と両膝の裏に男の手がしっかりあって、抱き抱えられたのだと気づけば当然羞恥心を煽られる。
連行、って何。物騒な言い方をする。
でもジタバタと抵抗でもしたら振り落とされてしまいそうで、いつもの自分じゃ見られない、男と殆ど同じ高い角度からの景色により一層心拍数があがる。
そうして、長い足で誘導されたのが男の寝室だと分かった時には、もっともっと心臓は煩く鳴って、酷使し過ぎてシステムエラーになって止まってしまったらどうしようかとさえ、思う。
「、ん、っ」
電気も付けず、薄暗い部屋のベッドに寝かせられた瞬間、直ぐに唇を噛まれて咄嗟にぎゅう、と目を瞑る。
そのままロンTの裾から緩く侵入してくる手は熱さを伴っていて、背中を柔く撫でられたら身体がびくりと震えてしまった。
先程まで流していた涙は突如与えられた緊張と熱により止まっていたけど、その痕跡を辿るように目尻にもキスが落ちて、思わずそっと薄く目を開ける。
「…なんで、笑ってるの、」
暗闇に直ぐには目が慣れそうにない。
でも私が目を開けることを予期しての行動だったのか、至近距離の男のやけに愉しげな顔だけは、瞳に映してしまえた。
その表情があまりに珍しく解れているから、当然の疑問をぶつけると、再び軽く口付けられる。
「そりゃ笑うだろ。」
「…面白がってる。」
「ちげーわ馬鹿。」
こちらは心臓機能の停止を危惧するくらいには、いっぱいいっぱいなのに。
随分と余裕が見える男をじっと見つめていると、1つ溜息を吐いた形の綺麗な薄い唇が、何かを紡ぎかけていた。
____プルルルル
「…、」
でもその瞬間容赦なく鳴り響く機械音が、私と依織が居るベッドの直ぐそばのサイドテーブルから聞こえてきた。
ぱちぱちと数回、互いに合わせるように無言で瞬きをした後、男は舌打ちしつつまた私の唇に自分のものを重ねる。
「…依織、電話、」
「うん、BGMってことにする。」
「何言ってるの。」
こんな会話をしている間にも、音は鳴り続けている。
私の胸元辺りに顔を埋める男の肩を数回叩いてまた「依織」と呼んだ。
「なに。」
「なに、じゃなくて電話、」
ずっと鳴り続けている。
しかもこれは、仕事用として使用しているスマホの音の筈だ。事務所でもよく聞いていた。
「ここは、"仕事じゃなくて私を優先して"とか言っても良いと思うけど。」
「…その前に私、部下なので。」
「あーはいはい、出来た部下に感謝してる。」
まるで棒読みな言葉を告げ終えて、私の鼻を軽く摘んだ男は、ベッドを降りてスマホを耳に当てながら部屋を出て行った。