朝戸風に、きらきら 4/4 番外編追加


______________

_______



「……はあ?ファミリー向け?」

「はい。」

「向こうの担当がそう言ったわけ?」

「…はい。でもそんなこと、この間のオリエンテーションの時は一言も仰ってなかったですよね…」

「世代超えてあのチョコみんなで食おうって?
もう何万回使い古したコンセプトで勝負する気なんだよ。まじでやる気あんのか。クソだな。」

「那津さん、口が悪いです。」


怪訝そうな顔でそう言いつつ、私が作ってきたおにぎりにかぶりつく彼は、オフィスの回転式の椅子に座って天井を仰ぐ。

そう文句は言いつつも、何かデザインを考えているらしい。



一緒の案件を担当することになってから知ったが、この男は会社に泊まり込むことがとても多い。

デザイン作りに没頭すると例のroom2からなかなか出でこないし、案件の話をしたくても、仕事のリズムが掴めない中で、なかなか捕まえることが出来なくて。

それでもコンペの準備は、あの人無くしては始められないと痺れを切らした私は、早朝に、仮眠部屋と化しているその会議室に押しかけることを決意した。


この間のオリエンテーションだって、同行してくれたのが奇跡に近い。(大体面倒なことは嫌がる)




『おはようございます那津さん!!』

『…え、なに。』

『もうずっと那津さんが捕まらないから、
早朝、此処に突撃することに決めました。』

『…え、すげー迷惑。』

『こっちだって那津さんに、先方の情報とか進捗色々とお話しないとマズイんです!メールも見てくださってるのかいまいち分からないし。』

『あー、見てる見てる。』

くあ、と欠伸をまた咬み殺す男はゆらりとしたトーンでかわしてくるけど、もうそんなことではこちらも揺らがない。

『共有事項があるときは、
こうして朝ごはんと交換で、私に時間ください。』

『…お前が作ったの?』

『そうです!!コンビニでばっかり済ませてたらダメです!』

『…おかんかよ。』



今考えても、なかなか強引だったなと思う。

でも私が作る朝食の味を気に入ったのかなんなのか。

アカプラとして初めて挨拶に行ってから暫くした後、本気で嫌がることの無かった夜行性の彼を朝の挨拶と共に叩き起こす、謎のルーティンが始まっていた。



< 8 / 81 >

この作品をシェア

pagetop