花を愛でる。
というか私の話よりも社長のことが気になるのに彼ばかり話すから上手いこと話題を切り出すことが出来ない。
「(忘れられない人、か……)」
頭に思い浮かんだのは二人。一人は大学時代の元カレ。婚約者がいるのに嘘を吐いて私に連絡をしてきた最低な男。出来れば記憶から抹消したいのだが定期的に思い出しては腹立たしく思っている。
そしてもう一人は……
「恋愛ではないですが、お礼を言いたい人はいます?」
「お礼?」
「その方がいなかったら秘書を目指してなかったと思うので」
大学生の頃に出会ったその人は今は顔さえ曖昧だが、彼の話を聞いて影響を受けた私は諦めかけていた秘書の道をもう一度目指すことを決めた。
「へえ、じゃあその人にもう一度会いたいわけだ?」
「いえ、別にそうは思わないです」
「え?」
私の返事に彼は意外そうな顔をした。
「確かにお礼は言いたいですが、多分その人にとってはなんてことないアドバイスだったと思うので、そんなことで感謝されても逆に迷惑かもしれませんし」
「……」
「それに秘書にはなれましたけど、まだ自分の仕事には納得していないので」
秘書という仕事には就けたけれど、まだ異動してきて一年も経っていない。もっと秘書として成長し、彼を支えられるようにならないと胸を張ってその人に会えない。
「花はこの先どんな秘書になりたいの? 目標とかはある?」
「そうですね、目標……」
そう言われて思い浮かぶのはやはり黛さんの顔だった。私と同じ年齢なので、秘書としての貫禄と言うか余裕を感じるし、何よりも会長であるお兄さんのことを尊敬しているのがこちらまで伝わってくる。
それから……
「自分だけじゃなくて、ついているその人の評価も上がるような、そういう仕事がしたいです」
「……それってつまり俺の為ってこと?」
「……今は、そうですね」
そうなりますね、と自分が口にしたことを頭の中で反復させるとそれなりに恥ずかしいことを言っていたことに気付き、咄嗟に照れ隠しでグラスに手を伸ばしたが中身を飲み干していたことを思い出した。
今は彼の秘書だから彼の周りからの評価も上がるような仕事ぶりを見せたいというは事実だ。だが、もしそれが彼じゃなくても考えていることは同じ。
それなのに社長は「嬉しいな」と表情を緩ませて、何故か私もそれが嬉しいと感じていた。
「社長はどうなんですか?」
「ん? 目標?」
「そうではなく」
アルコールが入って思考が鈍った、のかもしれない。
「好きな人、とか……」
「……」
あぁ、こんなことを質問して真面目な返答が返ってくるわけがないのに。しかし返ってきたのは仮面を被ったような彼の微笑みだった。
「それは誘ってるって捉えていいのかな?」
答えるのは遅れたのは、私の中に迷いがあったからだ。