花を愛でる。
何なの、これ。どういう状況なの。
なんで私、いちいちこの人の言葉を真に受けているんだろう、前まではそんなことなかったのに。
『婚約者だって思われてないのにここまで来て、私馬鹿みたいですよね』
その時何故か、別れ際の今にも泣き出しそうな笑顔を浮かべる早乙女さんのことが頭を過った。
彼に冷たい態度を取られる彼女のことを何処か可哀そうに感じていたけれど、でも誰よりもこの人の素の部分を引きずり出していたのは彼女であったことを思い出した。
そのことを思うと、彼が今口にしている言葉は彼の本心ではないのかもしれない。
そこからコースの料理が前菜から運ばれてきたが、どれも私が食べるには勿体ないくらい美味しくて、母もこんなお店に連れてこられるように早く大きくならなくてはと思った。
時たまに彼が私をからかうように話を吹っ掛けてきて、それにまた冷たく返事を返すと社長は何故か嬉しそうに顔を綻ばせる。アルコールが入っているからか、普段よりも機嫌よく感じる。
運ばれてくる料理を噛み締めるように一口一口味わっていると、彼はワイングラスの中で揺れる液体を眺めながら不意に問い掛ける。
「花はさ、誰かを好きになったりしないの?」
「……」
いつもならスルーする話題だったが、彼が何を思ってそんな質問を投げかけてきたのか興味があった。
一度手にしていたナイフとフォークを皿の上に降ろす。
「今は恋愛にうつつを抜かしている暇がないので」
「真面目だね。別に恋愛は仕事をしながらでも出来ると思うけど」
「とにかく今は資格の勉強だったりに時間を割きたいので、そんなこと考えたことありません」
この歳になって恋人一人いない状況なのは世間一般的に“枯れている”と思われても仕方がないと思う。
だからこの人に抱かれるとその部分が満たされるように女としての潤いを取り戻すことが出来る。誰でもない、人間として価値のある“向坂遊馬”に抱かれることで、だ。
「まあ、好きな人がいたら俺に抱かれないよね」
「……」
「もしこの先、花が他の誰かと付き合うことになったら。そうしたら俺に見せていたあの可愛い顔がその男にも見られちゃうのはちょっと妬けるな」
よくぞ気持ちの籠っていない言葉を流れるように言えるな、と感じながらも密かに戸惑う気持ちを誤魔化す為にグラスに注がれていた白ワインを飲み干した。
「本当にいい人いないの? それか昔好きで忘れられない人とか」
「(しつこいな……)」