花を愛でる。
──────────────────
─────────────
─────────
私が遊馬さんに初めて会ったのは5歳の時。初めて父に連れられて社交界のパーティーに出席した時のことだった。
その日、会場で父とはぐれてしまった私は彼からプレゼントされた大きなクマのぬいぐるみを両手に抱えながら涙目で彼を探し歩いていた。
「パパぁ、どこぉ……?」
知らない大人に囲まれて不安が募る中、父とはぐれた心細さから腕の中のぬいぐるみをぎゅっと抱きかかえる。
今にも声に出して泣き出しそうになるところを我慢し、会場を歩いていると前をよく見ていなかったせいで誰かの脚に身体をぶつけてしまう。
「わっ……」
「と、なんだ?」
よろけた身体をか細い脚で何とか支え、顔を上げる。するとそこには若く、優しい顔つきの男性が私を見て驚いた表情を浮かべていた。
「君、どこの子?」
「っ……」
背の低い私に合わせてしゃがみ込んだ男性。その後ろから「どうした?」と声が聞こえ、また違う男性が彼の背後から顔を覗かせた。
「子どもか?」
「兄さん、多分迷子みたいだ」
「今日娘さんを連れてきてるって聞いたのは早乙女様のところだな」
並んだ二つの顔は兄弟だからかよく似ているように見えた。
私の目の前にしゃがみこんでいる弟さんの方がぐっと顔を近付けてきた。
「名前、言える?」
「……さおとめひなこです」
「雛子ちゃん、か。お父さんとはぐれちゃったんだね」
そう言って私の頭を優しく撫でた彼は微笑みを浮かべ、その笑みを見ているだけで不安に思っていた気持ちが和らいでいくのを感じた。
この人の笑顔には人を安心させる不思議な力がある。
「遊馬、俺はその子の父親探してくるからそれまで何処か安全なところで待っていてくれるか? そうだな、ここを出たところにソファーがあったな」
「分かった、ありがとう兄さん。それじゃあ俺と行こうか?」
「……」
クマのぬいぐるみを更に強く抱き締めると、彼はそんな私を見て「ごめん」と呟く。
「俺の名前は向坂遊馬。少しの間だけど俺とお話ししない?」
「っ……」
私の前に差し出された掌に自分の手を重ねると柔らかい肌に包まれる。
いつの間にか不安は消えて、込み上げてきた涙も引っ込んでいた。