花を愛でる。
「そっか、雛子ちゃんは絵を描くのが得意なんだ?」
パーティー会場を離れ、ホテルのロビーで父が迎えに来るのを待つ。
その間、迷子だった私を保護してくれた遊馬さんはいろんなことを聞いて私の不安を取り除いてくれた。
彼の声は不思議で、聴いているだけで安らぎを与えてくれる。そのお陰か初対面の人には人見知りを発揮する私も自然と自分の話を口に出していた。
特技は何か、好きな食べ物は何か。小学校ではどんな勉強をしているのか。最近家族とどこに出掛けたのか。
口下手な私の話も真剣に聞いてくれて、その度寄り添った返事をくれる。
それだけで私は彼が信頼の寄せることのできる大人であることが分かった。
「じゃあ雛子ちゃんは将来どんな大人になりたい?」
「どんな……おとな……?」
「なりたいものとか……夢?」
ある?と尋ねられ、私は控えめに首を縦に振った。
「え、かくの……」
「絵かー。イラストライターとか、漫画家とか?」
「まんがか……!」
彼の口から出た職業に興奮気味に首を振る。
すると遊馬さんは「そっか」と目を細め、そんな私を慈しむような瞳で見つめた。
「いいね、なれるよ絶対」
子供の頃の私は自分の家庭の事情なんてまるで分かっていなかったし、将来は自分の望んだ漫画家という職業に就けるとばかり思っていた。
遊馬さんの口から私の夢を応援する言葉が出たのも当時の私は素直に受け取っていたけれど、どういう気持ちで彼がそれを口にしたのか、私は全然分かっていなかった。
「遊馬」
背後から彼の名前を呼び声が聞こえて、ソファーの背もたれ越しに後ろを振り返ると彼の兄の後ろに父の姿が見えて、「パパ!」と慌ててソファーを降りて父の元へ駆け出した。
「おお、雛子。良かった。探したんだぞ」
「う、ごめんなさい……」
「いや、しっかり見ていなかった私も悪かった。何事もなくて安心したよ」