花を愛でる。
駆け寄った私を抱き上げた父は暫くの間私を保護してくれた遊馬さんとそのお兄さんに向かって礼を言った。
「本当にありがとうございます。まさか向坂様にご迷惑をお掛けするとは」
「いや、無事お探し出来てよかったです。会場は広いので小さなお子さんを見失ってしまう方も多いですから」
彼らよりも遥かに歳が上の父が二人に対してひたすら畏まった態度を取ることを不思議に思っていた。
後から父に二人は日本でも有数の大財閥、向坂グループの御曹司であることを聞いた。
「僕も雛子さんとお話しできて楽しかったですよ。礼儀正しくて、素敵なお嬢さんですね」
「ええ、そういっていただけるだけで……」
前に立っている遊馬さんにゆっくりと手を伸ばす、するとそれに気付いた彼が優しくその手を包み込んでくれた。
「またね、雛子ちゃん。次また会えたら、その時は俺に絵を描いてくれる?」
そう言って微笑んだ彼は今まで見たものの中で特別輝いているように見えて。
その瞬間から、私の世界は遊馬さんで染まった。
それから、遊馬さんに会えるのは数か月に一度の機会だけだった。それでも私と目が合うと彼は「雛子ちゃん」と名前を呼んでくれる。
遊馬さんは私と10歳しか年が離れていなかったけど、子供の私には凄く大人に見えた。だけど彼が纏う雰囲気が、放つ言葉が、親しみやすさを与えてくれた。
父が何かのパーティーに参加する時にしか会えなくて、もっと会いたいって気持ちばかりが募る。
私は彼に会えた時の為に沢山の絵を描いた。花や蝶、空の模様、夢での出来事、私が見たものを、彼にも見てほしかった。
そして教えてほしかった、遊馬さんのことを。