花を愛でる。
「雛子の絵、俺好きだなあ」
「……?」
パーティーの合間、私が画用紙に描いてきたイラストを見せると彼はいつもそう言ってくれた。
「雛子が見たもの、感じたもの、色の濃淡から伝わってくる」
「ほん、と?」
「うん、本当」
彼が私の描いた色鉛筆の線を指でなぞる。この人の視界に、私が描いた世界が映っている。
彼が好きと言ったものに、私が作ったものがある。
今はそれだけで……
「あすま……さんは……」
「ん?」
「あすまさんは、好き? 絵描くの」
私のことは知ってくれているけれど、彼は自分の話をすることは数少ない。
純粋な気持ちからそう尋ねた私に遊馬さんは「そうだなー」と、
「描くのも好きだけど、どっちかと言うと……」
「……?」
その言葉の続きに興味を示していると遊馬さんは小さく「気になる?」と目を細めた。
数日後、私は遊馬さんからの招待を受け、向坂財閥の本邸に脚を踏み入れていた。
遊馬さんのご家族以外に親戚の人も暮らしていると言われている本邸のお屋敷は想像以上の規模であり、私も自分の家は大きい方だと思っていたが上には上がいることを知った。
父に遊馬さんから招待を受けたことを話すと彼は大いに喜んだ。そして向坂家から招待を受けること自体が貴重であり、その機会を大事にするように促された。
付き人を一人連れて向坂家に向かった私は遊馬さんの部屋に通される。
その部屋で目にしたものは……
「こ、これっ……」
「全部俺が作ったんだ」
彼の部屋の棚に飾られていたのは様々な形、色をしたガラス工芸品だった。
子供だった私の目にはその全てが宝物のように輝いて見えた。きっと今見ても同じような感想を抱くとは思うけど。
「俺は絵を描くってよりもこうして実際手に取れるものを作る方が好きかな。ほとんど趣味で作ってるものばっかりだけど」
「しゅみ?」
「分かんないか。雛子、どれか好きなのある? 特別にあげる」
初めて彼が好きなものを共有してくれたように感じた。それは彼との距離が縮まった証拠でもあると思った。
どうしてこんな子供に……と思ったけれど、相手が子供だったから彼は心を開いてくれたのかもしれない。
「すごい……ひなこもつくれる?」
「ん? あー、まだ雛子には危ないかなあ。でも大きくなったら教えてあげる。ちょっとここから離れたところに工房があって、普段はそこで作ってるんだ」
「こうぼう……?」
「高校卒業したら専用のアトリエも作ろうと思ってさ」
そう語ってくれた彼の瞳は幼い少年のように輝いていて、私には飾られているガラスよりも眩しく思えた。
あぁ、そうか。これが遊馬さんの……
「あすまさんの、夢は……?」
「……俺の夢は」
そっと彼が私の耳元で小さく囁く。その声の温度を、私は一生忘れない。