花を愛でる。
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「彼の夢、ですか……」
自身と社長の出会いから仲良くなるまでの経緯を語った早乙女さんの口から飛び出した言葉。
以前、私の誕生日に贈ってくれたグラス。あれも彼が作ったと言っていたが、そんな昔からガラス工芸に関わっていたとは知りもしなかった。
でも今の話の流れからすると、
「ガラス工芸の職人……とかでしょうか?」
「……」
そう尋ねると彼女は首を横に振った。
「私も最初はそう思ったんですけど、どちらかと言えばもっと広い意味でというか……ガラス工芸のような伝統工芸を外に広げる仕事がしたいみたいです」
伝統工芸とは、古くから伝わる技術や手法を用いられた美術品や工芸のことを指す。そのほとんどが手作りの品であり、熟練の技が必要となる。
だが世間からの高い評価の裏でその伝統を受け継ぐ若い職人の不足や原材料の高騰により、その伝統が途絶えてしまうものも少なくないと耳にしたことがある。
「初めてそれを聞いたとき、私ははっきりと意味を理解出来ていませんでしたが、彼も理解してほしくて言ったんじゃないと思います。ただその夢を、誰かに知ってほしかったのかも」
「……」
「彼は……向坂グループの人間です。自分の夢が叶わないことなんてその時から分かっていたはずでした」
仕事に対しては実直な彼の態度からは察することが出来なかった胸の内に、以前ホテルで彼が気持ちを吐露した時の記憶を呼び起こす。
『こっちの世界ではこっちの住民にしか分からないことがある。それを理解しようなんて、到底出来るはずがないんだよ』
分からなかった。理解できるはずがなかった。
だって私は“夢が叶ってしまった”側の人間だったから。
秘書になるのも、なるのを諦めるのも自分で選択することが出来た人間だったから。
他人からの圧力で夢を諦めさせられるなんて経験したこともなかった。
社長は、やはり私とは違う世界に立っている人だ。
「でも、その時は仲が良かったんですよね。いつから今のようなご関係に……」
「それは……彼が18歳になって高校を卒業する時に私との婚約が決まったからです」
「18歳……って……」
確か彼と早乙女さんの歳の差は10歳差のはず。ということはその時早乙女さんは……
「は、8歳の女の子と婚約、ですか!?」
「はい……その歳の頃から婚約者や許嫁がいることはこっちの世界ではなんらおかしいことではありません。ですが私たちの場合、歳の差が問題でして……」