花を愛でる。
≪お前が用意する道はアイツにとって正解ではないかもしれない。それでもお前は責任を取れるのか≫
「……取れます」
≪根拠は?≫
「私は彼の秘書です。彼が私を秘書から外すかクビにしない限り、ずっと彼の傍で支えます」
≪……≫
この人に負けているんじゃ、きっと私は社長の足元にも及ばない。ここで立ち止まってなんかいられない。
暫くして聞こえてきたのは喉を鳴らすような彼の笑い声だった。
≪くく、なるほど。やはりしぶとい女だ≫
「……?」
≪ここで『ああ、そうですか』と引き下がるような女なら俺がアイツの秘書の座から引きずり落していたな≫
引きずり落すって、彼のどこにそんな権限があるのだろうか。
相変わらずの横暴っぷりに呆れつつ、私は漸く握っていた掌を開いた。手の中はこれでもかというくらい汗で濡れていた。
≪まあ、アイツの煮え切らない態度に俺も飽き飽きしていたからな。俺の隣に立つ男だ、遊馬には俺の元まで昇ってきてもらう必要がある≫
「……協力していただけるということでしょうか」
≪そんなわけないだろう。俺はお前がどこまでやるか遠くから見届けてやるだけだ≫
「……」
そうですか、と思っていたよりも落胆の声が口から漏れた。性格的に合わない人だと思っていたけれど、協力してくれたらこれ以上ない味方になると思っていた。
しかし残念そうにしているのを知られるとまた彼に皮肉を言われそうなので態度には出さないように心がける。
すると彼の口から思いがけない言葉が飛び出た。
≪だがしかし、行き詰まっているんだろう。俺から簡単でいいなら遊馬のことを教えてやってもいい≫
「え?」
≪お前が一番知りたがっているだろう、アイツが伝統だの工芸品だのにこだわらなくなった理由だ≫
「っ……」
先ほどとは打って変わって私にとって有益な情報を引き渡そうとしてくる彼。突然の変わり身に速さに戸惑いながらも今は彼の機嫌を損ねないよう、黙って話の続きに意識を集中させる。
≪俺が把握しているものだと二つだな≫
「……一つはアトリエ開発が失敗に終わったことですか?」
≪それもあるがそもそもあの父親が許していたとは思えんな。それよりも既にあったものを取り壊されたことの方が大きいだろう≫
「既にあったもの?」
まさか……
≪母親が残したアトリエが取り壊された。父親の手によってな≫
「なんでそんなことを……」
≪遊馬には兄がいるが、当時父親と兄の間に確執があってだな。父親は兄ではなく、弟の遊馬に自分の跡を継がせるつもりだった≫
「……つまり、自分の跡を継がせるために邪魔なものを排除したということですか?」