花を愛でる。
「ま、待ってください。私のことが気に障ったのは分かりますがどうして」
≪どうして? 理由は言わないと分からないのか。じゃあ教えてやる。お前には荷が重いからだ≫
荷が重い? ふつふつと沸き上がる怒りに私はデスクの下で握り拳を作った。
難しいことなのは理解している。だけど早乙女さんと黛さんの想いを背負ってここにいる。そんな理由で私が諦めるとでも思っているのだろうか。
「お言葉ですが何を根拠にそんなことを言うんですか?」
≪根拠か……根拠は俺だ≫
「え?」
すると黛会長は電話越しでもハッキリと聞こえる低温で告げた。
≪俺が十何年と説得を続けたのにも関わらず、アイツは気に耳を持たなかった。それくらいアイツの意志は固い。秘書になって一年も経ってないようなやつにアイツが動かせるわけがないだろう≫
「っ……」
十何年も説得を? 黛会長が?
でも考えてみれば黛さんは社長に最も近い存在なのは黛会長だと言っていた。そんな彼が社長の夢に関して知らないはずがない。そして彼をライバルだと思っている黛会長のことだから、社長が夢を諦めることを知って何もしなかったとは考えにくい。
そうか、この人はずっと社長を説得していたんだ。私がまだ彼と出会っていないことからずっと。
一番彼に夢を諦めてほしくないのは、黛会長なんだ。
≪何度もこちら側からも支援しようとしたがヤツはそれを認めなかった。機会なら今の役職についてからも幾度もあった。だけど行動に移さなかったのは遊馬自身だ≫
「……」
≪アイツは諦めさせられたんじゃない。“自分で”諦めたんだ。この意味が分かるか?≫
今まで聞いた誰の言葉よりも黛会長の言葉が重く感じた。固まっていた意志が揺さぶられる。見えかけていた道が、また暗闇に閉ざされていくように感じる。彼への道筋が、どんどん消えていく。
今になって早乙女さんが口にしていた「説得」が、どれだけ難しいことなのか、思い知らされた。
それでも、
「それでも、私に出来ることがあるのならここで止まることは出来ません」
≪……遊馬のことだ。今更過去の話を持ってこられたら今以上に殻に籠り、二度と人前で隙すら見せなくなるだろうな。それでもこんなことを続けるつもりか?≫
「私は、……」
黛会長からの圧力に負けそうになる。それでも少しでも光の道筋が見えているのであれば、可能性があるのなら。
あの人を、救いたい。