花を愛でる。
それまでは淡々と語っていた社長の目が突然冷たさを覚えた。
「兄さんはそれを知って俺を守る為に自分の夢を捨てて父の会社を継ぐことを選んだ。俺が家の縛られず自由になれる為に」
「……」
「昔からそうなんだ、自分のことよりも他人を優先する。だから父からの重たい期待にも応え続けることが出来た。それがあの人が俺に向けてくれた愛なんだって、分かっていたのに」
でも俺は、彼は瞼閉じると視線を地面へ落とした。
「俺は、そんな兄さんを見捨てて家を出ることなんかできるはずがなかった。だから俺も父の会社に残って兄の手伝いが出来ればって思ったんだけど、兄的には自分の夢を棒に振ってまで家から解放してやろうと思った弟が自分で戻ってきたんだから気に喰わないのは仕方がないと思うよ」
「……それ、お兄さんに話しました?」
「話したところで俺があの人を裏切ったことは変わらないから。だから俺があの人からどう思われても、俺には反論する資格がない」
彼はそう言うけれど、それでも吉野さんの彼に対する評価が低いままなのは頷けない。お互いがお互いを想っての行動だったのに、それが二人を引き裂くきっかけになってしまっている。
どうして人ってこんなに上手くいかないんだろう。想い合っているのにすれ違ってばかりで、一度関係が崩れてしまえば元に戻らないことだってあるのに。
でも彼と吉野さんの関係は私が思っているよりの簡単に修復できるものじゃない。それを一番に分かっているのは彼自身だ。
だから、
「私に出来ることがあれば何でも言ってください。もう二度と、貴方の指示なしに動きません」
「花?」
「社長が望む道に、進めるように尽力しますから」
今私に出来ることは、彼を近くで支えること。彼が自由になって、自分のやりたいことを成し遂げるその時まで彼の味方でいること。