花を愛でる。
「……花、どうかした?」
「え?」
「なんか嬉しそうだけど」
嬉しそう? 私は自分の表情を確かめる為に頬に手を寄せる。すると彼は「表情は変わってないけど」と笑った。
「でも俺も前よりかは花の気持ちも分かってきたのかもしれないね」
「……」
「え、次は怒った? どうして?」
「気持ち、分かるんじゃないんですか?」
冷たく突き放すと「うーん、まだまだかな」と彼は困ったように自分の顎を撫でた。
私の気持ちが分かるなんて簡単に言わないでほしい。私だって複雑すぎて理解できていないのに。
「勝手に吉野さんに会ってしまいすみませんでした。それに……」
「兄さんが言っていたことは気にしなくていいよ。どうせそうだろうなって思ってたからさ」
「でも……」
昔は仲が良かったことを聞いていたからか今の二人の関係を見ているとなぜそうなってしまったのかという疑問が頭を過った。
だけどその疑問を口にする資格が私にはない気がして、胸にモヤモヤだけが残る。
「花」
「は、はい」
名前を呼ばれて顔を上げると、月の光を背にして社長が私を慈悲深い瞳で見つめていた。
「折角だし、少し散歩しようか」
バラ園に出ると社長はゆっくりと吉野さんとのことや昔のことを私に向けて語り始めた。
「兄さんは昔、一度家を出ようとしたことがあったんだ。あの人が高校を卒業したときかな」
「え、吉野さんもですか?」
「海外で教師になりたかったって言っていたよ。まともに学校に行けないような貧しい子供たちに日本の文化とかを教えたいって」
今は立派にグループの代表を務めあげている吉野さんも、本当は社長同様にやりたいことがあったのか。
それも日本の文化を教えたいだなんて、そういうところも兄弟で似ているんだな。
「だけど父親に反対された。兄は会社を継ぐと同時に自分の夢を事業に出来ないかって父親に持ち掛けたんだ。つまり今の俺と同じだね」
「……それで、どうなったんですか?」
「父はそれでも許さなかった。それから父は兄じゃなくて俺を後継者にしようとした。だから父は邪魔になるものを俺の周りから消そうとしたんだ」
「それって……」
社長が通っていたアトリエが彼の父親に取り壊されたって。そこは黛会長に事前に伺っていた話の通りだった。だけど吉野さんも元々は会社を継ぐつもりはなかったんだ。