花を愛でる。



きっと箱の中のケーキは倒れた拍子に形が崩れているはずだ。母がどんな気持ちでこのケーキを受け取りにいったくれたのかを思うとより一層胸が苦しめられる。
ケーキの箱から手を離した彼は私に近付くとそっと肩に触れた。


「花、一人で背負い込むな」

「っ……」

「起きたことばかり後悔しても仕方がない。大事なのはこれからをどう生きるかだ」


普段の口調とは違う彼の力強い言葉には重みがあり、それは彼自身の実体験から出た想いなのだと言葉の背景越しに伝わったきた。
私が小さく頷いたのを見て彼はふっと笑みを零した。


「それに恩返しできてないってことはないでしょ。花が会社で頑張ってるって聞いてあんなに嬉しそうな顔してたのに」

「……そうですか?」

「うん、お母さんも花のせいだなんて思ってないよ。だから後悔するのはそこまでにして、ちゃんと前を向こう」


心に積み重なった後悔の数々が一つずつ彼の言葉によって溶かされて消えていく。
私がどれだけ自分のことを攻めようとしても、この人はその針を一本ずつ取り除くのだ。

じゃあ彼の後悔は誰が取り除くんだろう。


「今日はこのままお母さんについてなさい。明日の休んでくれていいから」

「え、でも……」

「大丈夫大丈夫、一日花がいなくたって真面目に仕事するし。スケジュール調整とかも自分でやるから」

「……」


だから、と彼は手を伸ばすと私の目の下の隈に指を触れさせる。


「花もゆっくり休みな。気付くの遅れてごめん」


あぁ、そうか。私は……


「(自分のことも……)」


何も、気付けていなかった。彼に気付かされた。
いつだってこの人が私の前を歩いていく。

振れた指先から熱が伝わるように、じんわりと広がる温かさが緊張と不安で披露した身体に染み渡っていく。
今、心の底からこの人の秘書でよかったと思った。



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