丸重城の人々~前編~
柚希はいつにも増して、中也にくっつている。
「柚希?大丈夫?」
「………」
「柚希!」
「え?何?」
「やっぱなんかあったよな?何?すぐ俺がなんとかする!」
「何も!」
「震えてる…」
中也が柚希の両手を包み込むように、握る。
「大丈夫!」
できる限り、笑顔で言う。

“助けて”
そう言えたら、どんなに楽だろう。
でもいつも守ってもらってばかりな私が、これ以上迷惑かけれない。
強く、心を強く。
柚希は必死に自分自身に、言い聞かせていた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
でも手紙は毎日のように、ポストに入っている。
【あの男は誰だ】
【俺の方が柚希を幸せにできる】
【旦那と別れろ】
など。
少しずつ、確実に柚希の心を蝕み殺していた。

そして柚希が寝た後の、リビング。
柚希以外が集まっていた。
「あ、大!柚希は?」
「あぁ、今寝てる」
「そう…」
「兄貴はなんか知らねぇのかよ!」
「わからないんだ。柚に聞いても“大丈夫”しか言わねぇし。自分が情けねぇよ…」
「でも姫、確実におかしい。びくびくしてるし。俺達が初めて会った時に似てる。しかも急に話しかけたりすると、怯えるし」
「大翔、ちょっと部屋に入っていいか?」
「将大?どうしたんだよ?」
「ちょっと思い当たることがある」
「あぁ」

将大は大翔と二人で部屋に行き、戻ってきた。

「兄貴?」
大翔がかなり怒りで震えていた。
「これ……見てくれ…」
将大が紙の束をテーブルの上に置く。
そこには柚希をここ最近怖がらせていた、原因の全てがあった。
< 126 / 162 >

この作品をシェア

pagetop