誰がなんと言おうと砂
「なんか生きづらそうですね」
ふつう。ふつうの人間の枠組に、わたしは生まれたときからたぶん、もう二度と入れなかった。
桜は人に見える。走る車は光の筋。虹は猫のしっぽ。信号機は、信号の色は、信号の色は今でもよくわからない。認識ができない。正しさがわからない。ただしいってなに。ふつうって、なに。
声がたまにちくちく刺さる。さっき奈央に小突かれたとき、その軽い衝撃が心臓にまで響いた。人の目は恐怖だ。針のように刺さり、あぐあぐと呼吸をし、なんとか抗おうと目を閉じ、眠る前は暗闇の自分を見つめている。
深淵を覗くとき。深淵もまた、こちらを覗いている。その偉人の言葉を知ってから、素直に眠れなくなくなった。
奈央たちが前に悪口を言っていた。幼稚園から一緒の奈央だけがわたしのことを実はちゃんと知っている。
わたしがおかしいことを知っている。
だからほんとうは心臓を握られている心地。何かまずいことがあると奈央はわたしに聞いてくる。笑顔で、やさしく、「ばらされたいの?」って問いかける。
つみき。つみきが壊れて、ころころ落ちてく。そんな気分。わらって、まじめを装って、まちがえたらお母さんが泣くし、お父さんに叱られるから、わたしはわたしでいられないのが、だけど本当はつらかった。
いまもくるしい。ずっとくるしい。
「変なんだもんわたし」
「…」
「頭おかしいんだもんわたし」
「〝ふつう〟じゃないからですか先輩」