シークレットベイビー 弥勒と菜摘
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一年ほど前、兄は友達とクラブに行き、この美人さんと知り合った。
2人曰く、たまたまその夜飲みすぎて、一夜だけ燃え上がって、そのまま別れて、気付いたら5日前、女の子が産まれていたそうだ⋯⋯ 。

そんなことある?

菜摘は、青い顔の兄を見下ろした。
この人は、昔からそう⋯⋯ 。
大事なところでやっちゃうんだ⋯⋯ 。

高校の時は、友達の落とし物を拾おうと、橋から川に飛び込んで骨折した事がある。
大学の時は、頼まれてなんかの石を買い、そのために借金して数年がかりで返済した事もある。

危ない事が色々とあった人だ。

兄の妻はすごくしっかりした人だから、もう大丈夫だと思っていたのに、まさかこんな事しでかすなんて⋯⋯ 。

しかも姉には絶対! 言えないよ⋯⋯ 。


美人さんは、全く、悪気のない素直の塊⋯⋯ 天然⋯⋯ なんだろうか。
だからって相談するとか、責任とるとか、思いもつかないようなのって、どうしたらこんな人になるのよ!

2人とも私の前でクラブの時以来、つまりその時の一回しか会った事がないらしいんだけど、「あっ、どーもー」って他人行儀に挨拶してたし、神経を疑うわ。

でも、その結果が現にこの目の前の床に転がっているワケで。

「産まれちゃって〜」「困ったよね〜」

と2人で呑気に会話してるけど。


どうするのよ⋯⋯ 。

彼氏もいない私に。
短大の卒業式の翌日に。
ついでに言えば⋯⋯ 処女だし⋯⋯ 。

そんな私を赤ちゃんの母親にしちゃえ、なんて、どうして思えるわけ⁈



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加納菜摘は、短大の保育学科を昨日卒業したばかりだ。
4月から、在学中続けていたバイト先の保育園に雇ってもらう予定になっている。

そして床に座る菜摘の前には、おくるみにくるまれたものが、コロンと転がっている。
布の塊のようなそれは、時々、一部がぽこっとしたり、うにょっとしたり、動いている。

その周りには、2人の持ってきた荷物があれやこれや、狭い部屋にいっぱいに置かれている。


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