シークレットベイビー 弥勒と菜摘
✴︎



プルルルル


「おわっっっ!!!」


と兄が叫んだ。


「妻からだっっっ!!!」


飛び上がって部屋の外に出て、数秒後、


「そーゆーことで悪いな! 菜摘! あとは頼んだ! 」

「お兄ちゃん!!!」


菜摘が叫んだけど、それより早く、靴を履いて出て行ってしまった。


「イモウトちゃん」


この美人さんは最初から何だか外人ぽいんだけど、どんどん発音が外人さんみたいになってきた⋯⋯ 。


「でもダイジョウブ」

はい?
何が⁈


「兄の1人に言ってアルから! 
レンラクがあるハズ!
マッテテ!
あっ、時間がっ!
ダーリン待たせたら、泣いちゃうヨ〜! 」


と、そそくさと帰ってしまった。

おくるみが、ぽこぽこ動く。
菜摘は赤ちゃんと部屋いっぱいの荷物⋯⋯ おしめやミルクや着替えやタオルや⋯⋯ と、狭い部屋に取り残された。



✴︎



一週間後。


菜摘は、この数日、ひたすら2人の置いていった赤ん坊の世話をしていた。

赤ちゃんの名前は一子(いちこ)
one night(一夜)で一子。
兄たちのネーミングセンスを疑う⋯⋯ 。
少し大きくなって、国語の宿題で名前の由来聞かれた時、どう答えるのよ⋯⋯ 。

あーでも、何て可愛いんだろう⋯⋯ 。

赤ちゃんには何の罪もない。
こんな状況も知らず、菜摘にお世話されて、満足気にスヤスヤ寝ている。

ミルクの甘い匂いがする。
赤ちゃんの匂い。

菜摘は一子に顔を寄せて、赤ちゃんの匂いを吸い込む。
ホントに可愛い⋯⋯ 。
ムチュッ、ムチュッ、とほっぺにしていたところだった。


ピンポーン


〈うんぎゃぁ、うんぎゃあ〉


うわっ⁈ だれっ? 
泣いちゃった!
寝ていると起きないかな〜、なんて思うけど、起こされて泣いちゃうとホントに腹が立つもんだ。
でも泣く姿もなんて可愛い⋯⋯ 真っ赤になって。
よしよしって抱っこしたら、割とすぐ寝るのよね、この子⋯⋯ 。
と腕に抱く。


「よしよし」


ピンポーン、ピンポーン、

〈うんぎゃぁぁぁぁ〉


もう、誰! と、赤ちゃんを抱いたまま立ち上がり、「はーい」とドアを開けた。

ちなみに、菜摘は割と警戒心なく、いつもインターホンに出るタイプだった。

開けたドアの目の前に、背の高い男性が立っていて、まっすぐ、片手で赤ちゃんを抱いて体を使ってドアを開けた菜摘には、彼の胸のあたりしか見えなかった。 

ブランド物の紳士服売場の、上の方の階の超高価なあたりのって感じの生地が目の前⋯⋯ 。

頭の上から声がする。


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