Mr.キラーの殺人
流石にそんなことはないか。


世間に公表されている訳でもないし。


私の存在を知っているのは、


警察の上層部、棗さん、


そして棗さんの所属する課の人達。


だからそこまで知られてはいない。


……はずだ。


「…棗さん、皆さんいつぐらいに来れるって?」


嫌な予感を無理矢理振り払うために


棗さんに話しかける。


「あと10分はかかるって」


いつもの優しい声音で言う。


大丈夫だ、この人は大丈夫。


信用していいはずだ。


…めっちゃヘタレだけどな(関係ない)。


でも絶対に殺人なんかする人じゃない。


だから安心できる。


そして約10分後。


棗さん達の課の人達が来た。


「あら、魅紗ちゃん、元気してた?」


リングのピアスを揺らしながら


私に話しかける女性らしい彼。


彼は桑楡嶺(ソウユレイ)。


オネェタイプの人である。


現実にオネェに会ったのはこの人が初めてだ。


茶髪を刈り上げた漢らしい髪型をしている。


中身は全く違うが、見た目は漢である。


体つきもしっかりしてるし、


身長もすごく大きい。


最初はすごい怖かった。


けれど話していると普通にいい人。


親を亡くしたばかりの私に


いろんなことをしてくれた。


他の人は気味悪がった


この嗅覚を受け入れてくれた。


私の居場所を作ってくれた。


この人には本当に感謝しかない。


「あ、桑楡先輩…」


棗さんは桑楡さんが苦手らしいが。


少し引き気味に私の後ろに隠れる。


勿論それに対して何も言わないわけではない。


「こら棗!!魅紗ちゃんの後ろに隠れない!」


「じゃあこっち来ないで下さいよぉ!」


…また始まった。


毎回私を間に挟んで二人は


言い合いを始めるのだ。


正直やめてほしい。


間に挟まれる私の気持ちにもなってくれ。


それにこのまま騒いでたら、


またいつもと同じように彼に注意されてしまう。


「…藍沢、桑楡、喚くな」


凛とした声で場を一喝する彼。


四角い黒縁眼鏡をクイッとあげて言う。


彼こそこの課の課長。


天谷真人(アマヤマヒト)である。


ずっとスーツを着ているかっちりとした人。


黒い髪を七三に分け、


常に姿勢がピシッとしている。


彼がoffになったところは見たことがない。


ただ堅い人。


そのイメージしかない。


けれど実は彼も優しい人なのだ。
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